寺地はるな 『大人は泣かないと思っていた』


              2021-08-25


(作品は、寺地はるな著 『大人は泣かないものと思っていた』    集英社による。)
                  
          

 
初出 「小説すばる」
    大人は泣かないと思っていた。    2017年1月号
    小柳さんと小柳さん         2017年3月号
    翼がないなら跳ぶまでだ       2017年5月号
    あの子は花を摘まない        2017年7月号
    妥当じゃない            2017年9月号
    おれは外套を脱げない        2017年11月号
    君のために生まれてきたわけじゃない 2018年1月号

 本書 2018年(平成30年)7月刊行。

 寺地はるな
(本書より)
 
  1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。会社勤めと主婦業のかたわら小説を書き始め、2014年「ビオレタ」でポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。著書に「ミナトホテルの裏庭には」「月のぶどう」「今日のハチミツ、あしたの私」「みちづれはいても、ひとり」「架空の犬と嘘をつく猫」などがある。

主な登場人物:

[大人は泣かないと思っていた]

舞台は九州北部の耳中市の田舎。
10余年前、九州北部の耳中郡肘差村は、市町村合併により耳中市肘差になる。時田姓が多い。

時田翼<俺>(32歳)
父親 正雄(78歳)
母親 広海
(ひろみ)

耳中市農業協同組合勤務。休日には菓子作りが楽しみ。
・父親 11年前、母親が家を出た直後、父親は心筋梗塞で倒れ、以降外出控えている。あの女が家のゆずをひとつづつ盗んでいると妄言。

田中絹江(80歳) 時田家の隣に住み、正雄とは仲が悪い。
小柳レモン ヘルパーと名乗り、田中絹江の世話をしている。若い女の子。
時田鉄也<鉄腕> 小学校からの同級生。耳中市肘差(ひじさし)には時田姓が多い。
[小柳さんと小柳さん]

小柳レモン
母親 木綿子
(ゆうこ)

バイト先のファミレス店長に、お客さんのいる中、頭突きを食らわせクビに。時田翼とは傍から見ると仲良しのよう。
・母親 18歳で家を出、看護師の資格を取り、ひとりで娘を産む。その後三四郎と結婚。

小柳三四郎 市外の病院勤務の診療放射線技師。同じ病院に看護師として入ってきた木綿子に一目惚れ。レモンには「お父さんじゃなくてもいいよ。家族だよ」と。
[翼が無いなら跳ぶまでだ]
時田鉄也 鉄也と翼、肘差村肘差小学校では隣のクラス。鉄也の夢は木原玲子と結婚すること。でも年上、離婚歴のある彼女故、両親は反対。
時田翼 翼の小さな夢は、今の職場(耳中市農協)で出世がしたい。出世してお酌警察を壊滅させたいと。
木原玲子 耳中市内の損害保険の会社に勤務。春まつりの日時田鉄也の家に行き、皆の前で母親の離婚理由を問われたり、父親が母親を怒鳴りつけるのを見て爆弾発言の波紋。
[あの子は花を摘まない]
白山広海(ひろみ)

40代後半で離婚。友人(千夜子)の誘いで、共同で小さな会社(株式会社ベル)を設立、社長に。
息子の翼とは年に何回か会っている。

千夜子

中学の同級生だった時田広海と同窓会で再会、共同会社を起こそうと誘う。20代で結婚、30代の時離婚。
千夜子は大輪の花と、広海は感じている。

時田翼

女の子みたいな顔立ち、泣き虫だった息子はもうどこにもいない。
母親に対し、「逃げた、あの家を捨てた、と思ってるのかもしれないけど、違うから。離婚したいっていうお母さんの意思を受け入れたのはお父さんの意思なんだし・・・それと同じだよ」「お母さんはもう振り返らずに生きていけばいいよ」ときっぱりとした決別の言葉。

[妥当じゃない]
平野喜美恵 時田翼と同じ耳中市農協共済課勤務。姉が離婚して実家に息子を連れて戻ってきて、部屋は狭くなり、家を出るには結婚するしか姉の鼻を明かしてやれない。30代の焦り。相手には時田翼が妥当と思っているが・・・。
原田亜衣

平野と同期。同じ課の年下の飯盛(28歳)と、できちゃった結婚すると。亜衣にも結婚に不安も・・・。

小柳レモン 亜衣から、「時田翼と付き合っているのか」の問いに「答えたくないです」と。若く、ひたむきな女の子。
[おれは外套を脱げない]

時田義孝(よしたか)
<おれ>
妻 あき子

鉄也の父。飯盛春馬と原田亜衣の結婚披露宴に出席。
・長男 正敏
(まさとし) おれに似た顔、性格。
・次男 鉄也 耳中市農協共済課勤務。
・娘 雪菜(28歳) ネイリスト。父親を無視、一人暮らし。
・妻 あき子 従来は義孝に従順だったが、鉄也の恋人木原玲子に出会ってから豹変。

飯盛春馬(はるま)
結婚相手 原田亜衣

時田義孝の妻の遠縁の若者。農協の共済課職員。
できちゃった婚で急ぎ披露宴を計画。

松田えま(仮) 春馬の付き合っていた水商売の女。
[君のために生まれてきたわけじゃない]

時田
父 正雄

酒飲みの父親(79歳)が肝臓に腫瘍で市内の総合病院に入院。
翼が看病で通っていて、考えることが多い。
・父 短歌を書き残したり、寝言を発したりが多く。

時田鉄也<鉄腕> 翼のことを心配して、一計を案ずる。
小柳レモン ゆずの件以降、翼のことを快く思っているが・・・。

幹子
<みっこ>

翼のかっての恋人。
病院で出会い、別れて以降、ものすごく変わったことを知る。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 時田翼32歳、農協勤務。大酒呑みで不機嫌な父と2人暮らしで、趣味は休日の菓子作り。そんな翼の日常が、庭に現れた柚子泥棒との遭遇で動き出す…。人生が愛おしくなる、大人たちの「成長」小説・全7編。

読後感:

[大人は泣かないと思っていた]
  読んでいてなんだか涙が溢れてきた。孫で、おばあちゃんの世話をしようとしたのに、漏らして濡れたおばあちゃんの下着を素手で触れず、お箸でつまんだとして涙を流すレモンの話。
 そんなレモンも、「ゆずのジュースをもう一回飲んでみたい」というおばあちゃんのために幾度となくトライしても「これじゃない」と言われ、繰り返し隣のゆずの木からもぎとってくる程なのに。

 本編が一番感動と思っていたが、続く作品ではそれぞれ心を動かされシーンが続出。それぞれのシチュエーションに感情移入され、思わず心動かされる。
 各編では主人公がそれぞれ変わっていき一連の物語は続いていく。
 主人公の時田翼は、子供の頃からなよなよとして、身体もか細く、そして先のことを考えて行動する姿に対し、幼馴染みで男らしい、鉄腕の渾名の時田鉄也が、ラストの「君のために生まれてきたわけじゃない」で翼に仕掛けた作戦。

 翼の恋人の母親が言っていた「今だけ良ければいい、というものではないのよ。近眼でいてはだめなの。遠くまで見ないと」が翼の謎ルールになった。
 父親のこの後の状態と、自分が置かれた立場を考えると、とても結婚相手のことを考えることが出来ない。それを突き破る鉄腕の計画。こんな友人、周りの人が存在していたら・・・。


余談:

 今回、主な登場人物と概要がやたら分量が多くなった。それぞれの編の内容に感銘を受けた為、書き残しておきたくなって多くなった。著者の他の作品も読みたくなった。 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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