寺地はるな 『声の在りか』



              2022-01-25


(作品は、寺地はるな著 『声の在りか』    角川書店による。)
                  
          

 初出  掲載誌はすべて「カドブンノベル」
    いちご  2020年1月号
    メロンソーダ  2020年4月号
    マーブルチョコレート  2020年6月号
    ウエハース  2020年8月号
    トマトとりんご  2020年10月号
    薄荷  2020年12月号

 
本書 2019年(令和元年)9月刊行。書き下ろし作品。

 寺地はるな
(本書より)

 1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年「ビオレタ」で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞し、同作でデビュー。他の著書に、「大人は泣かないと思っていた。」「夜が暗いとはかぎらない」「水を縫う」「どうしてわたしはあの子じゃないの」などがある。

主な登場人物:

坂口希和(きわ)
夫 和孝
(かずたか)
息子 晴基
(はるき)

結婚前保育士を二年ほど勤めた。結婚出産後は復帰諦め、今はパート(書き込みサイトに書き込まれたレビューで、誹謗中傷のチェック)。波風は極力立てない主義。
その後「アフタースクール鐘」にパートで採用される。
・夫 食事中でもスマホに夢中。
・息子(晴基)さえない小学4年生。
勝手に「アフタースクール鐘」に出入りしている。

鐘音(かなと)家の人々

・大先生 駅前の鐘音ビルの所有者。
1階で小児科、2階は「アフタースクール鐘」の民間学童クラブ。
・長男(研 ケン)東京の医大出、去年小児科を継ぐ。理枝の2つ年上。
・次男(要 カナメ)フリーター
。「アフタースクール鐘を始める。
・長女(理枝 リエ)希和と同じ料理部に入っていて毎日一緒に帰っていた。今は離島でお医者さん。
・きみこおばさん 

岡野さん
娘 陽菜
(ひな)ちゃん
旦那さん

ボスママ。物腰はいかにも優しげで、口調はいつも絵本の読み聞かせでもしているようにおだやか、女王なのだ。
・陽菜ちゃん 小学4年生。ダンススクールに通っている。
・取り巻き 八木さん、福岡さん

堤さん
息子 聖也
(せいや)くん

シングルファーザー。子供は多動と呼ばれる生徒。
希和と同じマンションに住んでいる。
離婚した母親と最近復縁した。

江川さん
娘 ゆきのちゃん

小学4年生の父親、離婚して一人で娘を育てている。
希和と同じ学校の6名の広報委員会の、ただひとりの男性。
・ゆきのちゃん 父親がかわいそうと父親と暮らしている。
・母親は離婚後再婚。ゆきのちゃんのことは心配で時々会っている。

美亜ちゃん
お母さん

学区が違うので別の小学校の2年生、「アフタースクール鐘」の教室の生徒。いそがしい子供。何か失敗したときの、身体をこわばらせたままが気になる。
・お母さん いつもびしっとスーツを着こなした、いかにも仕事のできそうな女性。でも悩みがありそう・・・。

沢邊あみ(さわべ) 小学4年生の担任の若い先生。新卒か、二、三年目。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

「こんなところにいたくない」。パート帰りの希和が見つけたのは、小学4年生の息子とそっくりの筆跡で書かれたメッセージだった。息子の様子を探るため学童で働き始める希和だが…。自分自身の言葉を取り戻すためにひとりの女性が奮闘する、大人の成長小説。

読後感:

 各章でテーマが違った展開になっているが、登場人物は連続していて、読者にとってはわかりやすい展開となっている。
 主人公の坂口希和が物語の中心となり、息子の晴基と夫の和孝の家庭の様子、晴基の小学校での様子が展開するとともに、もう一つの世界、民間の学童施設「アフタースクール鐘」に集まる学童と鐘音
(かなと)家の大先生と要(かなめ)、それに長女の理枝にまつわる話がある。

 色んな話が登場してくる中で、次々と希和の、こうしたかった、こんな風に言葉にしたかったと悩む姿があり、それぞれ読者として納得いったり、感情移入できる場面がある。そんなことから、どうまとめたら良いか悩ましかったが、通して読んでみて感じたのは、これは希和という女性の母親としての成長の小説であったと、図書館の紹介記事に納得したことだった。

 夫とのコミュニケーション不足をお互い理解できたり、晴基の成長ぶりを感じるようになったり、自分が思っていることを、周囲のことばかり気にして言えなかったり、岡野のボスママとの間の気まずさを気にかけなくなったり、実際のことを判らないまま、勝手な噂をまき散らす世間のあり方に左右されることなく、自分で考え、発言したり行動しようと出来るようになったり、要(かなめ)の言葉にヒントをもらったりと、成長する希和の家庭に春がきたように。


余談:

 色んなエピソードがあった中で、心に響いた言葉:
・要
(かなめ)が希和に語った言葉
 「子どもって、ずーっとかまってあげる必要ないんです。ただふっと彼らが顔を上げた時に、彼らの視線の先にいたらいいんです、希和さんや僕が」
 「ただそこにいる、ということに意味があるんです」
・希和の悩み
 「自分の言葉を持ちたい。消えてしまったかもしれない自分の声を取り戻したい。自分の言葉を使えるようになりたい。誰かの受け売りで話すのではなく、周囲から求められている言葉をさがすのではなく。誰かならこう言うだろうという想像の輪郭をなぞるのではなく、声を発したい」 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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