寺地はるな 『雨夜の星たち』


              2021-09-25


(作品は、寺地はるな著 『雨夜の星たち』    徳間書店による。)
                  
          

 
本書 2021年(令和3年)6月刊行。書き下ろし作品。

 寺地はるな
(本書より)

  1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。「ビオレタ」で第四回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。2020年度咲くやこの花小゛ンゲイ文芸その他部門受賞。著書に「みちづれはいても、ひとり」「大人は泣かないと思っていた」「夜が暗いとはかぎらない」「わたしの良い子」「希望のゆくえ」「水を縫う」「やわらかい砂のうえ」「彼女が天使でなくなる日」「どうしてわたしはあの子じゃないの」「ほたるいしマジカルランド」「声の在りか」などがある。

主な登場人物:

三葉雨音(みつば・あまね)
<みっちゃん>

職業はお見舞い代行、26歳。他人に興味がない。
住まいは1階が喫茶店「傘」の二階。
お見舞い代行業は、言われたことだけをし、空気を読むとか忖度するとか、そういうことは一切しない。
会社勤めでは、他人とペースを合わせられない自分が、会社の中で看過されていたのは、星崎くんがいたから。

[三葉家の家族構成]

・父親 公務員。
・母親 専業主婦 雨音は母親とあまり仲が良くない。
・姉 3歳年上、結婚して家を出る。
・従姉妹(母親の姉の子) 高城友理奈

霧島開(ひらく)

三葉の雇い主。喫茶店“傘”の店主で、ホットケーキが苦手。
父親が亡くなり、その資産を相続、暇つぶしの雰囲気で店を営む。

リルカ スナックで働く、感情豊かで共感能力が高い霧島の恋人。
星崎聡司(そうじ)

三葉の元同僚。湯気の立つ食べ物が苦手。会社ではみんなとペースを合わせられなく、会社を辞め、その後家からも姿を消す。
母親 異様に腰の低い人。父親は聡司が小学生のとき病死。

[依頼人たち]

田島セツ子
娘 高安

病院への送迎依頼。聞き上手な80代。霧島の母親に当たる。
霧島が8歳の時、離婚して再婚。娘を産む。

権堂

肝臓の病気で入院中の70代。三葉にとって因縁の相手。
・娘 キリコ 血は繋がっていないが、30年ほど内縁関係のまま、三人で暮らしていた。

清川好美(よしみ) 子宮全摘手術の立会人を依頼、42歳。
二木 足を怪我して通院の送迎頼み。友人も多いらしいが、ひとりでいることに絶えられないほどの寂しがり屋。
吉沢歩佳(あゆか)

入院して半年以上、17歳。他人を寄せ付けないところがあるし、性格も大人びている。
・母親 三葉に、歩佳の友だちになって欲しいと。

小山洋美(ひろみ)

前島総合病院の外来外科の看護師。
・夫 回転寿司こやまを営む。
・真樹也
(まきや) 息子、大学生。粗忽の小心者。
・小山千穂子 祖母、60代。夫と離婚。おしゃべり好き。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 三葉雨音は他人に感情移入できない26歳。同僚星崎くんの退職を機に、仕事を辞める。他人に興味を持たない長所を見込まれた三葉は「お見舞い代行業」にスカウトされ、移動手段のないお年寄りの病院送迎や雑用をする「しごと」をはじめるが…。

読後感:

 主人公の三葉雨音(みつば・あまね)の性格は他人に共感もしない、感情移入もしない。それを「ええこと」と肯定した霧島が三葉を“言われたことだけをする お見舞い代行業のしごと”に雇う。
 依頼者として登場する田島セツ子、権堂、清川好美とのやり取りを通し、そして家族との問題、会社に勤めていた時の同僚(星崎聡司)とのこと、三葉の性格にまつわる世間、家族間の感情のゆらぎなど、読んでいるとよくありそうな状況に胸が詰まる思いで読んでしまった。

 特に印象的なのが、三葉雨音が、姉が赤ちゃんを産み会いに行った時に姉が吐露する言葉に、妹に対する恨み、母親に対する復讐心に涙が出てしまう。
 また、忌み嫌っていた権堂が亡くなる間際、三葉に頼み事をするシーン、聞き上手な田島セツ子さんと三葉のやりとりで、三葉が自分のことを理解し、変化していく様子も読み応えあり。


余談:

 他人のことに関心のない性格は、自身もその気があり、冷たいと思われがち。三葉雨音の振る舞いに興味を覚えつつ、反省をしたり、感情移入したり。寺地はるなという作家にますます関心が増した。 
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
戻る