天童荒太著 『ペインレス』










              2018-11-25
(作品は、天童荒太著 『ペインレス』    新潮社による。)
             
  初出 「新潮」2014年7月号〜2017年9月号に連載、単行本化にあたり、大幅加筆訂正。
  本書 2018年(平成30年)4月刊行。

天童荒太:(本書より)
 
 1960年、愛媛県松山市生まれ。1986年「白の家族」で野性時代新人文学賞を受賞しデビュー。1993年「孤独の歌声」で日本推理サスペンス大賞優秀作、1996年「家族狩り」で山本周五郎賞、2000年「永遠の仔」で直木賞を受賞した。人間の深部をえぐるそのテーマ性に於いて、わが国を代表する作家である。「包帯クラブ」「歓喜の仔」「ムーンナイト・ダイバー」等、著書多数。
   

主な登場人物:

(上)<第一部>
野宮万浬 麻酔科医。痛みに強い関心を持ち、痛みに悩む患者を臨床で診ていくことが本来の願い。嶋尾クリニックで働くことに。
嶋尾康男(70歳) 「嶋尾ペインクリニック」の院長。
嶋尾クリニックのメンバー

・院長 嶋尾康男 主に在宅でのホスピスケア選んだ患者の疼痛管理の為の往診担当。
・医師 野宮万浬 クリニックでの実質中心メンバー。
・事務長 関根靖子
・看護士 仲山淳子(ベテラン) 
・受付事務員 梶川恵美、八木陽奈(はるな)新人。

曽根雅雄(74歳)
妻 美彌
(みや)

末期がんの患者。死を間際にして人生最後の望みと奇妙な依頼を嶋尾院長に。

貴井森悟(たかいしんご)
弟 貴井英慈

・森悟 無痛症の32歳。
・英慈 28歳。

(上)<第二部>
野宮陸子 夫を持たずに一人息子の十市を産み、一人で毅然と生きる。怖いほど気丈な女、心理学の研究者。
京馬(きょうま) 戦地で両足を損傷、外観とは別に開放的な性格に変遷した男。
野宮十市(じゅういち) 陸子と京馬の間に生まれた子。県立美術館の学芸員。
イレーヌ フランス人女性、25歳。日本に留学して1年半、野宮十市が講義する学生。十市と結婚。度を越した感受性の持ち主。
野宮万浬 十市とイレーヌの間に生まれた子。自分でも何かおかしい、人と違うな、周りと合わないなって、いつも感じてた。「わたしは心に痛みを感じないのよ」と陸子に。
須磨子 野宮十市と18歳年下の大学の教え子。十市は万浬の5歳年下の千蛍(ちほ)を認知。イレーヌと離婚、結婚する。
(下)<第二部>続き

夷原詩楠子
(えびすはら・しなこ)

万浬が中学時代、実験の被験者として選んだ教員実習の女性。
府崎泰助(たいすけ) 万浬が高校時代、実験の被験者樹田壱彦(きだかずひこ)と接触するため近づいた大学病院勤務の社会精神医学研究室の室長。
樹田壱彦 15歳で家族全員を殺害、10年間医療少年院に、3年前退所し作業所に通う男、28歳。
(下)<第三部> <第一部>の状態に戻る。
藤都亜黎(ふじとあれい) 「きみの痛みを見せてくれ」と曽根雅雄、美彌と三人による特異な性愛の世界に。壁を越えこちらの世界(痛みを感じない世界)へと曽根雅雄と美彌を誘う。
貴井泉美(いずみ) 貴井森悟、英慈の母親。
矢須知明 元警察官で興信所の所長。会員制クラブ「人の望みの喜びよ」(様々な痛みの体験に快楽を求める会員たち)のメンバー。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

(上)
「医師として診察したいんです。あなたのセックスを」…。体の痛みを喪った青年は、麻酔科女医にとって舌なめずりするような実験材料だった。他者への共感を生来持てなかった彼女は、快楽の在処を確かめるべくセックスを繰返す。
(下)
「バラが痛みを理解しないなら、なぜトゲを身に備えたのだろう」…。心の痛みのない女と体の痛みを失った男。そこに愛は生まれるのか。進化の扉は開かれるのか。倫理や常識を超え、今、DNAの壁が決壊する。人間の倫理とDNAを決壊させる長編小説。       

読後感:

 主人公の野宮万浬を巡る無痛症の男との接触が(上)の第一部で展開されているが、第二部の万浬の祖母に当たる陸子にまつわる様子、妊娠して十市を産み、十市とイレーヌとの間に生まれた万浬のイレーヌことについて「陸子さん、イレーヌは自殺したんだよ。悲しいお話を読んでも、人が大勢死んだニュースを見ても、たとえ親しい人と別れるとしても、心は痛まない。つらくない。だったら何のために生きているんだろうって」、心の痛みを感じない人間が「むなしい」と告げて死を選ぶシーンに涙が出てきた。

 そして陸子は「この子を守ろう。この子の資質を守り育てよう。心に痛みを感じない人間を、この世界に対して、むなしくさせず、孤独に陥らせず、生き延びさせよう」と誓った。
 この第二部を知って先の野宮万浬の行動を見つめ直すと見方が変わってくる。
 作品の紹介記事やうたい文句に敬遠しがちだったが、中身は真摯な内容で感動できる。
 さて、下巻ではどんな展開が待っているのか。興味深い。

 下巻では野宮万浬の中学、高校時代の行動が描写されている。そして第三部で再び現実に戻り、曽根雅雄のがん末期の万里に対する若き頃味わった痛みをもう一度と依頼した結果が。
 さらに藤都亜黎という人物による曽根雅雄と美彌との三人による不可解な描写にどうしてこんな小説が生まれるのかと苛立ちさえ。

 一方、野宮万浬に関する貴井慎悟と英慈の兄弟との結婚話はお互い理解しあえるように見えるも、曽根の葬儀の後、貴井家を集めての万浬の報告は衝撃的である。

(上)(下)巻合わせての本作品の主題は痛みに関する注目度が増していくことを理解することを詠っていることは判るも、どうなのかなあと。
 

余談:

 
天童荒太作品では「永遠の仔」の感動を持っているだけに「ペインレス」なる作品を手にしたが、どうも期待外れと言わざるを得なかった。著者を理解できていないからなのか?  
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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