天童荒太 『巡礼の家』



              2020-01-25


(作品は、天童荒太著 『巡礼の家』    文藝春秋による。)
                  
          

 初出 オール讀物
     2018年11月号、12月号、2019年1月号、2月号、3・4月号、5月号、6月号、7月号
 本書 2019年(令和元年)10月刊行。

 天童荒太:
(本書による)  

 1960年愛媛県松山市生まれ。86年「白の家族」で野性時代新人文学賞を受賞。93年「孤独の歌声」が日本推理サスペンス大賞優秀作となる。96年「家族狩り」で山本周五郎賞、2000年「永遠の仔」で日本推理作家協会賞、09年に「悼む人」で直木賞受賞。13年に「歓喜の仔」で毎日出版文化賞を受賞。他著作に「あふれた愛」「包帯クラブ」「静人日記」「ムーン・ナイト・ダイバー」、画文集「あなたが想う本」(船越桂と共著)、談話集「少年とアフリカ」(坂本龍一と共著)、荒井良二画の絵本「どーしたどーした」、新書「だから人間は滅びない」がある。近著に「ペインレス」。

主な登場人物:

鳩村雛歩(ひなほ)
兄 鹿雄
伯父

両親と5歳年上の兄と4人暮らしだったが、ふるさとが豪雨で祖父母を心配して車まで。両親が川の氾濫で流され行方不明。伯父の家で世話になることに。
・兄の鹿雄 大学進学を諦め伯父のすすめで自衛官に。

『さぎのや』の人々 3000年の歴史を有する道後で有名な巡礼の家。
道後は第二次大戦で空襲を受けなかった。
鷺野美燈(さぎの・みと) 現在(80代)の女将。もとからこの土地の人ではなく海外の医療団に参加。爆撃で疲弊した彼女を父(医療団に参加していた)が癒やすために連れてきて父と結婚。
飛朗<ヒロさん>

女将さんの息子。弁護士の卵。こまきさんより4〜5才年上。
野性的な猛々しさを内に秘め、適には厳しく、身内にはあくまで優しいイケメン。

こまきさん 女将さんの娘。看護師の卵。
隼一(しゅんいち)(没) 美燈さんの夫。
鷺野まひわ 先々代の女将(78代)。
鶏太郎<おじいさん> 白ひげのおじいさん。庭のテントに暮らし、夜の間起きて、昼間寝ている。
鷺野千鶴(ちず)(没) 先代(79代)の女将。
マリアさん 色の黒い大柄な外国人女性。方言を使う。
サチオさん こまきさんと同い年の幼馴染み。男の子として生きているが、戸籍の性別は女の子。フクロウ医師の助手みたいなことをしている。
カリンさん 30才前後おかっぱ髪の女性。左の方から耳にかけて縫ったような傷跡。
ショウコさん 髪の白い小柄な女性。料理の仕込みをしている。
イノさん

つり上がった眉に厳しい目。右の額から目尻にかけて切り傷の痕。
−泥棒ゴリラ− 人力車の付き添い人。

アキノリさん 人力車の運転手。

富永先生
<フクロウ先生>

近所で開業の医師。フクロウみたいな声。

子供たち

雛歩が転校した学校の同じクラスの子。
・勇麒(ゆうき) 宮大工の鴻野さんの次男。
・由茉(ゆま) 
・奏磨(そうま) 老舗旅館磐戸屋の長男。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 舞台は、女性の一人旅ランキング5年連続1位の「道後温泉」。へんろ道で、行き倒れた少女が、温泉宿の美人女将に助けられる。他者に対して、不寛容になっていく現代だからこそ、手を差し伸べあって、希望と悲しみを分かち合う「理想郷」を描く。 

読後感:

 中学3年生、15才の女学生が、自分は人殺しと思い込み、裸足で旧へんろ道に入った。
 傷つきながら意識朦朧の状態で、霧に包まれこの世の人とは思えない女の人に出会い、『さぎのや』に連れてこられる。
『さぎのや』は巡礼で困った人や悩みを抱える人に仮の宿を提供している場所で、そこに止まる人たちがマリアさんやカリンさんやらがいる。みんな優しい。

 雛歩には不思議な力が備わっているのか、訪ねてきたお遍路さんの話を聞き、悩みに対して 素晴らしい言葉を告げ後日お礼の電話で女将さんに伝わる。
 雛歩にはまた「あなたには、ふだん人には言わないことまで話してしまう・・・無防備だからなあ」と言われる能力も。

 そんな『さぎのや』での女将さんや先々代の大女将や、雛歩の憧れの人ヒロさん、抱きしめられると押しつぶされそうになるマリアさん、みんなの優しさに自分は生きていていいのかと悩む。
 雛歩の人殺しの内容は雛歩の生い立ちや両親の行方不明に関係していて、その結果の情報は伯父の子供たちのあからさまな言葉で打ち砕かれる。一方で悩みの一つは解決することも。
 代々『さぎのや』の女将はその家に生まれ育った者であるべきとの意見もあったが、まひわの言う「帰る場所のない人、帰る場所に迷っている旅人たちを、もてなし、いたわり、旅を続けられるように力づける・・・という初代の意志というか誓いを、受け継いでいけることこそが、女将の資格」として決められた。


余談:

 最近読んだ天童荒太作品「ペインレス」もそう感じたが、最初に読んだ「永遠の仔」の印象が強烈に残っていたので、その後に読む作品はなんとなく霞んでしまっている。
 今回の作品、なんだかおとぎ話の世界のようで、こんな所があればいいけれどなあと感じる理想郷である。従って余りに現実離れしていて心に響かなかった。
 ただ、ラストの謝辞のところで、「私の生まれ育った家は、道後温泉本館から三百メートルほどしか離れていない場所にありました 云々」とあり、この物語が出来たことに納得。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
戻る