天童荒太著 『悼む人』
 


               
2010-08-25



(作品は、天童荒太著『 悼む人 』 文藝春秋による。)

            
    

 初出 「オール読物」2006年10月号より2008年9月号まで連載。
 本書 2008113月刊行、第140回直木賞受賞。

 天童荒太(てんどう・あらた):

 1960年愛媛県生まれ。 86年に「白の家族」で第13回野生時代新人賞を受賞。 93年には「孤独の歌声」が第6回日本推理サスペンス大賞優秀作となる。 96年には「家族狩り」で第9回山本周五郎賞を受賞。

 


 四姉妹の人物像

坂築静人
(さかつきしずと)

退職して亡くなった人を悼む旅を続ける。何故悼む行為を続けるのか次第に明らかにされていく。

坂築家
父 鷹彦(64歳)
母 巡子(58歳)
兄 静人(32歳)
妹 美汐(27歳)

母親の巡子は余命あと3ヶ月の末期癌を患い、在宅ホスピスケアを選ぶ。
父親は幼い頃のショックで対人恐怖症まではいかないが面と向かって話すことが出来ない。
美汐は怜治の親友の高久保と付き合って身ごもり、結婚まで行くも、兄静人の奇妙な行動に親戚の反対を受け破棄される羽目に。

福埜怜司(27歳)
(ふくのれいじ)
母親 みのり

甥、美汐とは兄妹のようにしている。
母親のみのりは鷹彦の妹、巡子は大学時代の親友。

蒔野抗太郎  
(まきのこうたろう)

大手週刊誌のエグノ記者。静人の行為に次第に影響を受けてきて記事の内容が変わっていく。

奈義倖世
(なぎゆきよ)
夫 甲水朔世
(こうすいさくよ)

最初の夫の暴力に逃げ込んだ寺で仏様と呼ばれる甲水朔世に助けられて離婚、朔世から結婚を申し込まれ再婚する。
1年程たって殺してくれと頼まれて夫殺しをする。静人の後をついていく過程で朔世の幻聴につきまとわれながらも彼女のわだかまりも変化していく。


物語の概要:

 全国を放浪し、死者を悼む旅を続ける坂築静人。彼を巡り、夫を殺した女、人間不信の雑誌記者、末期癌の母らのドラマが繰り広げられる。善と悪、生と死が交錯する、「永遠の仔」以来の感動巨編。

読後感:

 坂築静人の“人を悼む”旅の色々な場面を通じて様々な意見が飛び交う中、次第に母親の巡子、週刊誌記者の蒔野抗太郎、そして奈義倖世なる女性も次第に静人の心を理解していく間に語られる物語。それらを通して読者にも世の中の不条理、焦点が当たらないで忘れ去られている人々のことを思い起こさせながら家族の思い、愛の形、愛する人を亡くした後に残る人の思い、時間と共に忘れ去られることのつらさ、他人にも覚えておいて欲しいと願う残された人の思いがいつまでも胸に残ってしまう。
 はたして静人の心は理解されるであろうか?

 末期癌患者の巡子の症状と夫である鷹彦、娘の美汐、甥の怜司の行為を読んでいると飯島夏樹の「神様がくれた涙」や、柳美里の「命」等のことを思い出す。そしてその対処方法を今後の糧として参考になるのではないかと思ったり。




印象に残る表現:

 週刊誌の記者蒔野抗太郎が母親の巡子に、「普通の親なら、まずこんな旅は止めると思うんですよ」「静人君の今の暮らしを、つまらない、意味がない、とは思われませんか、恥ずかしくないですか」と問いつめられたときの巡子の返事: 

 「静人は、変人とか不審者などと見られます。人によっては不快に感じる場合もあるでしょう。でもそれは、あの子と、そのように感じる人との間の問題で、ほかの誰かが責任のとれることではないように思います。 肝心なのは、あなたに静人はどのように映りましたか、ということではないでしょうか。  蒔野さんがどう生きられようと、その理由より、人に何を残すかに蒔野さんの存在はある、と言い換えてもいいかもしれません。 ある人物の行動をあれこれ評価するより・・・その人との出会いで、わたしは何を得たか、何が残ったのか、ということが大切だろうと思うんです」


  

余談1:
 
 450ページの厚みもさることながら、びっしりと埋まった字に倍くらいのボリュームを感じる内容であった。そしてそこに出てくる人物とのやりとりに引き込まれていくのと、これから死を迎えることを考える一助になったかな。若い時にはなかなか読んで感動する所までいけない内容ではある。

余談2:

 以前読んだ本の中とか、ラジオの深夜便でも聞いたこともあるが、作中にも突然死ではなく、癌で亡くなることは幸せであるという言葉に改めてそうだなあと思えた。“亡くなるまでの間にやりたいことが出来る”、痛みがなく意識がはっきりさえ出来るならいいかな。
 
背景画は本書の内表紙を利用して。

                    

                          

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