主な登場人物:
久坂優希(29歳)
母親 志穂(54歳)
父親 雄作
弟 聡志(25歳)(さとし)
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川崎の多摩桜病院の老年科に勤務のナース(主任補)。 18年前は愛媛県双海小児総合病院、第八病棟(精神科“動物園”と呼ばれる。)に入っていた。 精神的障害とは・・・。
父親の雄作は、優希たちの霊山への退院記念登山の滑落事故で亡くなる。 母親の志穂と雄作、あまり言い関係でない。
聡志、大学卒業し、長瀬笙一郎の事務所に入る。 家族の秘密に迫り、異常行動に・・・・。
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有沢梁平
(りょうへい)
渾名 ジラフ(キリン)
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神奈川県警の刑事、巡査部長。 18年前、優希と同じ病院にいた。 女の人が煙草を吸うのを見ると異常に興奮する。 |
長瀬笙一郎
(しょういちろう)
渾名 モウル
母親 まり子
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長瀬法律事務所を立ち上げ、東京弁護士会に所属し企業、民事関係の弁護士、30歳。 18年前優希と同じ病院にいた。
笙一郎はひとり暗がりに置かれるとパニック状態になる。
母親のまり子(51歳)、アルツハイマ型痴呆で多摩桜病院に入院中。 「いいの・・・生きてるだけで、罪滅ぼしなの・・・」と寝言か?つぶやく。
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神奈川県警 |
・久保木係長
・伊島主任 菜穂子の父親代わりの役を担う。 梁平の行動に何か深い悩みがあるような思いを抱きつつ、いい刑事になることを期待している。
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早川奈緒子 |
父親が警察官だったバツイチの、なじみ客相手の料理屋のママ。 有沢梁平の恋人でもある。 |
真木広美 |
長瀬法律事務所に勤めるバイトの女性。 聡志に迷惑している。 長瀬笙一郎に好意を持っている。
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物語の概要:(図書館の紹介より)
上
再会は地獄への扉だった。十七年前、霧の霊峰で少年たちが起こした聖なる事件が、今鮮やかに蘇る―。 山本周五郎賞受賞作から三年余。 沈黙を破って放つ最高傑作ミステリー。
下
人は救いを求めて罪を重ねる。 連続殺人、放火、母の死…。 無垢なる三つの魂に下された恐るべき審判は―。 「救いなき現在」の生の復活を描く圧倒的迫力の2385枚。
読後感:
「悼む人」(直木賞受賞作品)を呼んで興味の湧いた作家の一人。 1997年の現在の状況と、18年前に起きた事件にまつわる1979年の状況が時を流れて入れ替わりながら、過去にどういうことがあって今日の三人の有り様に影響しているか次第次第に明らかになっていく。 そして現在の殺人事件(?)も引き起こしながら。
三人とも子供の頃の育ち方の影響をもろに受けながら、ある事件をきっかけに変わったのか、根っこの所はそのままに成長することで押し隠しおうせるすべを手に入れたのか。
弁護士、刑事、看護婦と一般の人からは尊敬され、間違いなど起こすことなどあってはならない世界に生きる三人の深く傷ついた心の悩みが展開する場面では、人間の弱さがあからさまになり、立派な尊敬されるべき姿とはとても想像されない。 それが実際の世界と・・・。
優希にしろ、梁平にしろ、笙一郎にせよ過去のトラウマか現在でもそれを引き起こす状況に陥り掛けると、不安定な精神状態になり、事件を引き起こす危険性を秘めて物語が展開する。 従って読み手はどういう秘密を持っているのか、精神的不安定さによっていつ、どういう事態を引き起こすのか、戦々恐々として読むことになる。 ミステリーとしても大変引き込まれる内容になっている。
そして感ずるところは、いかに子供の時代に両親からの愛情を一杯受けて育てられ、認められることが大事なことか、そして大きくなってからは、理解され、支えられる相手が必要かということを。
◆2015-08-25 update
5年前に読んで印象に強く残っていた作品を改めて読み返した。5年たってのことだけにだいたいの内容は頭に入っているため読んでいるその箇所の内容そのものに対する感情が湧いてくる。特に序章を読んでいると文章の表現からその風景が頭の中に浮かんできて、つい引き込まれていってしまった。
そして18年前明神山の森での三人の絆が後々までの支えになり、そして石鎚山での霧の中での出来事に対する苦悩がその後の人生の生き方にそれぞれたまらなくつらい思いで過ごしてきたことが胸に迫ってきて胸苦しささえ感じてしまう。
この作品、第121回の直木賞候補の作品で、そのときの書評を見てみた。あまり評価はよくないのにちょっと意外だった。現在ある色んな問題を含んでいて力作ではあるが人物の造形に対する評価、長編過ぎること、少年時代の表現法など。
再読して感じたが、当初の感動場面は印象に残る表現の箇所にあげたところであったがそこはもちろんだが、聡志の苦悩、梁平の養父母、伊島の思いにも感じるところが多く、読み直すのもいいものだなあと感じた。最近はちょっと次々読むことに追われているようでもある。
印象に残る表現:
聡志から「おふくろを燃やした」と告げられ、優希が病院を飛び出し、どう行動したらよいか判らなくなり、多摩川の川添いをさまよう内、笙一郎に電話をする。:
森には、疑う言葉も、責める言葉もなかった。ねぎらいと、いたわりの言葉・・・そして、他人の経験を共有しようとする、寛容な感情が満ちていた。
「モウル・・・ジラフ・・・」
そっと呼びかけてみた。
「大丈夫か」
静に言葉が返ってきた。
「疲れちゃったよ・・・」
優希は訴えた。
「ああ、わかるよ。つらかっただろ」
思いのこもった声を聞き、優希は涙が溢れそうになった。
「もう、いやだよ。もう、生きていくのがいやだ・・・。いいことなんて、何も、なかった気がするもの」
甘えたい衝動がこみ上げる。
声は、否定も励ましもしない。柔らかく彼女を受け入れ、包み込む。
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