印象に残る表現:
◇吉屋信子の俳句
七五三子よりも母の美しく
母親の方が着飾っている、という意味ではないだろう。きれいな着物を着せられた子どもよりも、質素ではあっても愛情と自信に満ちた母の美しさを、作者は見ているのだ、と思う。
俳句と川柳の境界というのは、最近ますます曖昧になっているように感じられるが、その違いについて、歌人の佐々木幸綱は、こんな風に言っている。「俳句というのは少数派の個性、川柳というのは多数派の個性、をあらわしたものである」―――これが、今のところ私にとって、最も説得力のある見分けかただ。
◇歌集「カウントダウン」に寄せて
日常の中のふとした瞬間やできごとに、作者独特の視線が走り、それが若々しい三十一文字に形づくられている――――そんなタイプの歌が私は好きだ。
◇「生きものたちの部屋」 宮本輝
好きな作家の随筆を読む気分というのは、二通りあると思う。一つは、小説だけでなく、少し違うタイプの文章を読んでみたいという思い。そしてもう一つは、作家の日常生活や書斎のなか、あるいは創作の秘密といったものを、覗いてみたいという、ちょっとミーハーな思い。
「生きものたちの部屋」は、両方の思いをたっぷり満足させてくれる。
一つの素材から、ふっと次の素材へとスライドしてゆくときの、関係のつけかたや取り合わせかたの妙味にあるのだろう。
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