俵万智著 『かすみ草のおねえさん』、
                    『101個目のレモン』
 



                      
2007-04-25

(作品は、俵万智著 『かすみ草のおねえさん』、『101個目のレモン』
 いずれも文藝春秋 による。)


              

「かすみ草のおねえさん」は1994年(平成6年)7月刊行。
「101個目のレモン」は2001年(平成13年)9月刊行。
「風の組曲」のエッセイを読んで、俵万智の感性に惹かれ、また著者のエッセイを手にした。

「かすみ草のおねえさん」
 第一歌集「サラダ記念日」出版 短歌を作り始めて4年たったときのこと。
この作品「かすみ草のおねえさん」は教師を辞めた27才から31才の今日まで書きためてきたエッセイ。


「101個目のレモン」
 このエツセイ集は「りんごの涙」、「かすみ草のおねえさん」につらなるものとして、私のなかに息づいています。「かすみ草・・・」のあと、さまざまな雑誌や新聞などに書いたものを、振り返り、集め、選び、そして一冊にまとめました。
 その作業は、この七年ほどの自分の足跡をたどるもことでもあり、なんだかアルバムの整理をしているような気持ちでした。


読後感:

 歌を作る人というだけあって(?)、ものごとに対する受けとめ方が並でせないのが窺える。考え方、共感するところといったところは、自分とあまり変わらないと思うのだが、それを表現する語彙の豊かさ、多さに感服。さらに違う点は、ちょっとしたことにも見落とさない、受け取る受光体の容量の大きさ。すくい取る感性。

 でも、著者の年齢を取っているのに、年を感じさせないでいつまでも持ち続けている女学生らしい、フレッシュさ、純真さ、好奇心といつたことに好感を持つ。

「かすみ草のおねえさん」の中に書かれている次の表現に著者のファンになった。
「人は悪意にはすぐ気づきますが、善意や好意にはなかなか気づかないもの。ささやかな優しさを、感じとることのできる心を培(つちか)っていきたい、と思います。それは、自分のなかに、ささやかな優しさを持ちつづけたい、という思いでもあります。」

こころに残る表現:

かすみ草のおねえさんより
◇かすみ草のおねえさん
 高校一年生のとき、あこがれていた先輩が明日卒業するというとき、はじめて花を買う。
「あの、明日卒業式なんで、その、先輩に花束を、と思って・・・」と。バラを見つけ、花屋のおねさんは、「あっわかった、あこがれの人なんでしょう。今日まで告白できなくて、いよいよタイムリミットなんだ」

「バラがいいの?」私の視線をたどって、おねえさんが言う。
「は、はい、それを三本ください」これを言うには、かなり勇気がいった。(せっかくだから千五百円ぐらいはふんぱつしようと思っていた。バラは一本四百円もした。)

 おねえさんは三本のバラを抜きとり、みごとな花束を作ってくれた。白い小さな花をまわりにたくさん配して、きれいなリボンを結ぶと、三本のバラが、きゅっとひきたつ。その白い小さな花が「かすみ草」という花で、立派な売り物だということを知ったのは、だいぶ後になってからのことだった。

◇ロサンゼルス
 時間の流れ方が、東京のとはずいぶん違うなあと思う。
ゆっくりなのだ。着いてしばらくの間は、何がどうというふうに、とうまく言えなかった。が、こんな大都会であるのに、どこかしらのんびりしている。
 それは、大変ささいなことではあるが、人々の「間」からきているのではないかと気づいた。横断歩道を渡りはじめると、かなり距離があるにも拘わらず、曲がらないで車が待っていてくれる。そこで思わず小走りになってしまう私。私には「間」がない。

 ホテルのエレベータには「閉」のボタンが見あたらない。乗り込むと、一秒でも早く閉めようとする習慣がついてしまっている自分。


101個目のレモンより
◇私の好きな一句 
 去年(こぞ)今年貫く棒の如きもの   高浜虚子

 暮れから新年にかけては連続した時間であるが、ひとは新年になると、新しい扉が開かれたとか、時代の幕開けとか言われたりする。つまり多くの人は「去年」「今年」という語のあいだには、それを貫くものよりも、むしろ段差や区切りを感じている。

 けれど去年と今年とは、実は棒のような何かによって、力強くくし刺しにされているのだ。虚子は年の変わり目に、段差ではなく連続を見出した。
除夜の鐘で、煩悩を葬(ほおむ)ったつもりになっても、それらから解放されることは、決してない。あのたくましい鐘つきの棒に、毎年私は、虚子の句を重ねて見ている。

  

余談:
 著者のエッセイに載った本とその作家の魅力点から、次に読む作品を色々導き出されている。そういう意味でも、今後もチェックしていきたい人である。
 柳美里はそんな作家の一人である

  背景画は、卒業式の時先輩のため、バラをかすみ草でくるんで送ったというイメージ画像。