谷崎潤一郎著 『細雪』
 


               
2008-02-25


(作品は、日本の文学73 谷崎潤一郎著『細雪』(上、中、下) ほるぷ出版による。)

          
    

 本文は昭和21年6月発行(上巻)、昭和22年2月発行(中巻)、昭和23年12月発行(下巻)中央公論社をテキストにしている。
 刊行 昭和59年8月


 四姉妹の人物像

鶴子

蒔岡(まきおか)本家の長女。養子(辰雄)を迎える。大阪では旧家として名が通っているが、全盛は大正末期までのこと。上本町に住んでいたが、栄転し東京(渋谷)に住居を移す。6人の子供をなす。

幸子(中姉ちゃん) 婿に貞之助をむかえ、蒔岡本家から分家し、鳴尾に住む。雪子と妙子の長所をとって1つにしたような近代的な女性、顔は陽性でにぎやか。雪子が義兄(姉=鶴子の夫)をきらって幸子の家にいつくこと多い。幸子は雪子をかばったり、面倒を見る役目をかって出ている。
雪子(雪姉ちゃん) 本当の昔の箱入り娘。内気ではにかみや、引っ込み思案で人前では満足に口もきけない、婚期遅れの娘。でも見かけによらない所あり。女学校から英文専修科まで優秀な成績で卒業。「そういう人柄の中にある女らしさ、奥ゆかしさを分かるような男でなければ雪子ちゃんの夫になる資格はないね」と貞之助は言う。
妙子(こいさん) 末娘。一番西洋趣味。20歳の時同じ船場の旧家である貴金属商の奥畑家の倅と恋に落ち家出。これが新聞沙汰になり、しかも雪子と間違えて報道され事件となる。特技の人形作りで活躍、さらに舞い、洋裁にも興味を持つ。ハイカラで実践主義。色々物議を醸し出す。
貞之助 幸子の夫。雪子や妙子を支える男としてなかなかの存在感を示している。

 

読後感:

 

 谷崎潤一郎の「細雪」の長編小説。船場の四姉妹の物語のイメージ(映画のプロモーションの影響が大きい)があり、内容は知らないし、一度読んでみたかった。

 解説を見てこの小説の意味するところが色々取りざたされ、色んな批評家の言があるようだし、モデルもあるとか。そんなことはともかく、実に面白い小説である。

 自身が関西出身で出て来る地名もなじみ深いし、本家が東京に出て来てそこを尋ねる分家の幸子が感じる関東と関西の違い(風土の違い)は、自分も関東に出て感じたことと全く同じで共感を呼ぶ。(もっとも関東に在することが長くなったいまでは、別の感情があるが・・・)

 さて、物語の中心人物である蒔岡家の雪姉(きあん)ちゃんこと雪子(婚期の遅れ、性格、育ちから)のお見合い話を縦糸に対照的にこいさんこと妙子の近代的、自立的というかいずれにしても雪子と妙子自身の言葉よりは、中姉(なかあん)ちゃんである幸子なりその夫である貞之助が雪子なり妙子の態度により心中を推量する形態が取られていること。ハプニングが随所に勃発するため、物語の展開は緊張感がみなぎってあたかもミステリーまがいの感もある。

 そんなことで長編かつ、日常の出来事でありながら引き込まれて読んでしまった。最後は雪子が自ら好んでいるのか、周囲の状況から結婚せざるをえないのかハッキリ意思表示のないまま挙式のために東京に向かうが、波瀾含みの終わり方で終わっている。果たしてこんな女性の結婚話がうまくいくのであろうか?

 雪子のような性格(育ちも含めて)は今の世にはないかも知れないが、でも家族内では理解されていて、ハツラツとして、頼りにされるが、人見知りで、ろくに意思表示もせず、しかし自分の思い通りを通すような女性はいるだろうし、それ故に幸子のように後ろ盾になってくれる人がいれば幸せであるかも知れない。

この作品で気になること。

 作品の文体が、普通の会話調は別にして、ところどころで気になるのがだらだらと文章をとぎれさせずに、句点で続けた表現がなされるところ。これがどういうわけかこの時代の雰囲気に合っていて、なんともゆったりとして、悠々と時が流れている感じがしておもしろい。しかし今日の女性が文章を完結させないで、なになにだしぃ、なんとかでぇ・・と続ける表現とは趣を異にしている。


  

余談:
 2/13市川崑監督が92歳で死去し、その新聞報道に代表作として「細雪」が載っていた。何かの縁があったのか、崑監督の好きそうな作品だなあと感慨深い。
 
背景画は市川崑監督の追悼番組、NHK衛星映画劇場 「細雪」 (2/18放送)の一場面から。市川崑監督らしい美しい構図が形成されている。

                    

                          

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