読後感:
若い頃に若年性乳癌で右乳房全摘出、抗ガン剤投与を受け、14年無事に外科医として大島総合病院で勤務。色々な患者の治療に当たってきた。そして結婚10年目にしてはじめて子宝に恵まれたことを知った最中、ついに再発の徴候。
知らせたら産むのを諦め、入院を強いられることに決まっているため、親友の友達にも相談できず。写真家として大した仕事もなく、家庭の主夫の役目をしている良介に知らせることなく、病気が身体をむしばむ前に、赤ん坊を生みたいと孤独に必死に耐える。周りの患者たちと生き死をかけた病気とも向き合い、励ます立場の滴。
ついに赤ん坊を生む前に病院を退職を告げる。夫がこの後は生活を支えてくれることを願うことで、きついことを言ってしまう滴。保井りつ子や吉野夫婦、同僚たちの温かい支え、そして夫良介の温かい手に心が和らげられ、精一杯生きる滴。
読んでいくうちに心が揺さぶられてきて、生きることへの欲望、勇気が静にわき上がってくる。医師だからなおのこと、自身の病状のことが判り、苦しむ様が痛ましい。
母の故郷の奄美の海が、滴の気持ちを広く大きく包み込んでくれているようで、そんな気持ちもよく分かる。
良介が、滴が自分を嫌うようになったのかと思って、遠く離れた孤島の仕事に向かう気持ちも痛いほど分かるし、保井りつ子が医師でない夫(翻訳家)が、ボストンに行きたいと告げられ、事実上の離婚を考えざるを得ないと思う気持ちも切なくとにかく感動の作品である。
ガンになった時の症状の記述も身にしみて参考になる。
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