谷村志穂著 『海猫』
 




                
2013-01-25



(作品は、谷村志穂著 『海猫』 新潮社による。)

                   

 初出 「道新Today」に1998年1月から2001年9月まで連載したものに加筆訂正。
 本書 2002年(平成14年)9月刊行。

 谷村志穂:(本書より)

 1962年、札幌に生まれる。北海道大学農学部で動物生態学を専攻。90年、ノンフィクション「結婚しないかもしれない症候群」で、女性たちの支持をあつめる。91年、処女小説「アクアリウムの鯨」を発表。2003年「海猫」で島清恋愛文学賞を受賞。ほかに、「ハウス」「十四歳のエンゲージ」「シュークリアの海」「レッスンズ」など多数の作品がある。

物語の概要: 図書館の紹介より

母でありながら義弟との、かなわぬ愛に自らを投じた薫。残された影を抱いて育つふたりの娘。女たちが心の軋むほどに求めた運命の人は…。北の風土を背景に、谷村志穂が全身全霊を込めて描く大河小説。

主な登場人物:

第一章、第二章

野田家
母親 タミ
娘 薫
弟 孝志

函館の裕福な老舗旅館に生まれたタミは出入りのロシア人と混血である青年と恋に落ち、夫は戦死し、帰国する。
生まれた薫の目の色に一瞬戸惑う。
薫が20歳の時、南茅部の赤木邦一に嫁ぐ。慣れない漁師の仕事に励み、美輝を授かる。
孝志は何ごとにも長続きせず、組の使い走りの毎日、借金に組を追われ、女にたかってはその場しのぎ。

赤木家(分家)
父親 邦之
(くにゆき)
母  みさ子
長男 邦一
(くにかず)
次男 広次

南茅部(かやべ)で昆布漁で生計を立てている。
邦之:「昆布の漁は夫婦でやるって決まってんだ。出来ねえんだったら、薫はいらないということになってしまう」と。
邦一:24歳で薫を嫁に迎える。薫の貴婦人のような色の白さで、現実は慣れした雰囲気を持つ女に溺れていくが・・。
広次:兄とは3つ違い。兄とは考え方も違い、函館に住み、景気のいい北洋船団に乗り込んでロシア方面に漁に出ている。
広次の部屋には薫に似た海猫の目をした女の絵が描かれたキャンパスがある。
みさ子:手伝いに来た孝志に広次について「あたしはあの子がおっかねえよ。あの子は何か、いつも違うものが欲しいんだよ」と。

第三章

姉 野田美輝
妹 野田美哉
(みや)
叔母 タミ
叔父 孝志

美輝は赤木邦一と薫の子。北大の文学部に。痛々しいほど繊細な娘、同時に圧倒的な強さを持ち合わせている。完璧すぎる美貌の美輝。
美哉は赤木広次と薫の子。函館遺愛女子高に在学。美輝とは別の意味で男達の視線を捕らえてしまう容姿の美哉。
ふたりとも薫の母タミに養子として引き取られる。
美哉は叔父の孝志に片思いの恋心を抱く。

高山修介 北大の農学部の学生。美輝の恋人。

読後感:

 北海道は函館とそして川汲峠(カックミトウゲ)を越えた函館の東、南茅部(カヤベ)の昆布漁を主にして暮らす漁村で繰り広げられる人間模様が第一章、第二章で展開する。

 母親が異人と結婚し生まれた目の色が違う薫と孝志の姉弟の運命は、それぞれ性格も生き様も異なるけれど、姉弟につながる想いはお互い理解しあえるもの。赤木家での生活では子供も、自分も守れないと感じた薫は、広次だけが頼りで赤ん坊を連れて函館に身を寄せようと決意し、悲劇を迎えることに。

 漁村での生活ぶりはいかにもの様子が溢れ、海の香りと土の感触を感じさせるに十分である。一方で函館の街並みの様子は、漁師の町とは対照的に一見華やいだ雰囲気を感じさせ、かって旅行で行った函館の雰囲気を思い起こさせるもので感慨深いものであった。

 薫と邦一との関係、薫と広次の許されない関係、はたまた孝志のどうしようもない男であるが、でも優しさを秘めて姉の薫を思う気持ちも分かる気がして、捨てがたい。

 さて、第三章になると美輝と美哉も大きく成人すると共に、仲の良かった姉妹もそれぞれ異なる道を求めて進んでいくが、それを見つめるタミは孫達の母親であった娘の薫の血を引いていることにうろたえることになる。それは自分の血であることも・・・・。
 

  

余談:

 舞台が函館、札幌であることに非常な感慨が引き起こされてしまう。初めて北海道に旅したのが、ツアーでの札幌、その後個人旅行として色々調べながらに行ったのが、函館と札幌。北大のキャンパスの雰囲気、函館の教会やら墓地やら、五稜郭、函館山からの夜景が眼に浮かんで、作品を読みながらもその雰囲気にすっかり浸ってしまっていた。

背景画は、物語の中にも出てくる函館ハリストス正教会の外観フォト。