谷村志穂 『セバット・ソング』



              2021-04-25


(作品は、谷村志穂著 『セバット・ソング』        潮出版による。)
                  
          

 初出 月刊「潮」(潮出版社)に2017年5月号〜2019年3月号まで連載、加筆・修正。
 本書 2019年(令和元年)11月刊行。

 谷村志穂
(本書より)  

 1962年、札幌市生まれ。北海道大学農学部にて動物生態学を専攻する。雑誌編集者などを経て90年に上梓(じょうし)した「結婚しないかもしれない症候群」がベストセラーに。91年、処女小説となる「アクアリウムの鯨」を発表。2003年、「海猫」で島清恋愛文学賞を受賞。著書に、「余命」「黒髪」「尋ね人」「いそぶえ」「ボルケイノ・ホテル」「大沼ワルツ」「移植医たちなど多数。

主な登場人物:

藤城遼平
妻 久美子
娘 ゆき

北海道大沼湖畔、駒ヶ岳の麓にある児童自立支援施設、駒ヶ岳学院(男子専用)と軍川(いくさがわ)学園(女子専用)の両方の学園長。還暦目前、寮のある公舎に単身赴任。
・母親と娘は札幌市在住。
ゆきは理学療法士として市内にこの春から働き始める。

学園関係者

・副院長 高瀬 院長と大学同窓の盟友。
・職員 小林 児童自立支援専門員。
・代田 藤城が着任する以前からの駒ヶ岳学院の職員。
    生徒達への指導は熱心きわまりなく、生徒に手を挙げ寮長を退任させられる。

野々村摩耶
兄 拓弥

奈良県内の農村部に生まれる。母親は同じだが、父親は違う。
7人兄弟姉妹で摩耶は5番目。一つ上の拓弥。
摩耶の下に彩友美
(あゆみ)と梨紅(りく)
・摩耶 中2の時軍川学園に入所。
・拓弥 中3の時駒ヶ岳学院に入所。

小柳医師 藤城ゆきが勤める病院の医師。
北村怜奈 藤城ゆきの監督係。PT(理学療法士)の3つ年上の先輩。
小泉瓔子(ようこ)

脳梗塞から余命いくばくもないが、リハビリに励んでいる。
ゆきの担当患者。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 北海道・大沼湖畔に佇む2つの施設。そこでは様々な事情で親元を離れた少年少女たちが、自立のため職員たちと一つ屋根の下で暮らしていた。施設を束ねる藤城遼平の娘・ゆきは札幌の病院で働く新人理学療法士。偶然、父の教え子である摩耶が歌う動画を見て…。

読後感:

 藤城遼平という児童自立支援施設の院長は、野々村拓弥に言わせると「風変わりな院長、変な大人の印象」。藤城が言うには拓弥のことは「自分と似ているところがある気がする。自分がどう思うかより、みんながどう思うか、まず考えるんだよな」と。
 押さえつけるより、みんなが出来るだけ言いたいことを言い、楽しく暮らせるようにと心を砕く。奈良での摩耶の経歴は言葉に出来ないほどの目に会っているが、そんな彼女が藤城のことを「パパリン」呼ぶように。

 その摩耶はギターを藤城のギターから興味を持ち、小林に教えられてYouTubeに曲を流し、ライブに出演するように。そんな姿を藤城の娘ゆきがのぞきに行き、兄の拓弥と三人でラーメン屋に行くことで接近する。

 しかし摩耶はパパリンの娘ゆきのことを、白の世界に住むのと、黒の世界に住むのと住む世界が違うと避ける。そしてゆきと拓弥が付き合っていると知ると、拓弥に「冗談はやめて」と。
 摩耶と拓弥の兄妹は互いに助け合い、奈良での虐待、小樽での養父による摩耶への性的接触を養護する仲の存在である。

 児童自立支援センターは中学を卒業し、高校進学となれば退院となる。摩耶も拓弥も、退院後は、摩耶は店で働きながらのライブ活動、拓弥は自動車整備工場で働く。摩耶は養父から居所を隠しながらも、母親への思いをかけるも、母親の、養父とのつながりを切れないことにつれない反応をしてしまう。

 ラスト近く、園長として、思い出を沢山もって自立の道を進んで欲しいと願っていた藤城が、娘のゆきが、園を卒業した野々村拓弥と結婚することの挨拶で大沼を訪れたいとの話に、妻の久美子からは「父親として拓弥のことを、責任を持って見極めてください」と責め付けられ、日取りをなかなか答えられない胸の内に、果たして拓弥とどのように向かい合えたのか。親の愛情を受けてこなかった拓弥は、こんな自分が親になっていいんだろうかと悩む。

 物語は終盤になって思いがけない展開が待っていた。
 学園の院長室で職員達に拓弥と娘のゆきの結婚話、摩耶の紹介をしていたときに突然現れた元寮長の代田の挑発に起きたハプニング、そしてその後の展開で一気に緊迫と藤城自身の生き様の反省と、ゆきの思いがけない行動。
 親の愛情がいかに子供の成長に影響を及ぼしているのか、読書しながら反省の時を持つ。 


余談: 

 この作品の描写、展開が何となく、今までの読書感覚違う気がしてとしようがない。施設内の出来事が随時入ってくることで、流れが寸断されることも影響しているかも知れない。帯文に実在の児童自立支援施設を取材し、繊細な心を描き上げた著者の新境地と唄っていることでなるほどと。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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