高野史緒著 『カラマゾフの妹』
       







              
2011-11-25




(作品は、高野史緒著  『カラマゾフの妹』  講談社による。)


            
              
 

 本書 2012年(平成年)8月刊行

 高野史緒(ふみお):(本書より)

 1966年茨城県生まれ、茨城大学卒業。お茶の水女子大学人文科学研究科修士課程修了。
 1995年、第6回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作「ムジカ・マキーナ」(新潮社)でデビュー。著書に「カント・アンジェリコ」(講談社)「アイオーン」「赤い星」(共に早川書房)など。編書に「時間はだれも待ってくれない21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集」(東京創元社)がある。

 

主な登場人物: (第1−2部中心に)

フョードル・カラマゾフ
一人目の妻
二人目の妻 

南ロシアの零細地主。13年前、55歳の時に自宅の寝室で何者かに撲殺される。

ドミートリー
(愛称 ミーチャ)
妻 

フョードルの長男、13年前のフョードル殺害事件で有罪となりシベリア送り。4年前、刑期の途中で作業中の落盤事故で死亡。
イワン フョードルの次男。現在内務省モスクワ支局未解決事件課の特別捜査官。

アレクセイ
(愛称 アリョーシャ)
妻 エリザヴェータ
(愛称 リーザ)

フョードルの三男。その「天使的」な性質で人々を魅了するこの小説の主人公。事件の時は見習い修道士だったが、今は結婚して故郷で教師の仕事に就く。
リーザ 13年前、14歳の頃に原因不明の病で歩けなくなり、長老による治癒を願ってスコトプリゴニエフスクの修道院を訪れた。

スメルジャコフ フョードルの私生児。カラマーゾフ家の下男夫婦と住んでいたが、事件後、裁判の前日に自殺。

ラキーチン
(ミハイル・)

ゴシップ屋のジャーナリスト。13年前は神学生で、アリョーシャの親友でもあった。

トロヤノフスキー
(ミハイル・ユーリェヴィチ・トロヤノフスキー)

帝国科学アカデミーの会員。犯罪捜査に強い関心を持つ若き心理学者。イワンと共に「カラマゾフ事件」の再捜査を行うことに。
ニコライ・ネリュードフ 13年前の事件を担当した予審判事。今は県庁所在地の裁判所で要職についている。

アグラフェーナ・スヴェトロワ
(愛称 グルーシェニカ)

13年前、フョードルとドミートリーの二人に惚れられ、事件の元凶となった女性。事件後はドミートリーに付き添いシベリアへ行く。


物語の概要:

『カラマーゾフの兄弟』で描かれた不可解な父殺しから13年。有名すぎる未解決事件に、特別捜査官が挑む…。歴史的未解決事件の謎が今ここに解かれる。興奮度超級のミステリ。〈受賞情報〉江戸川乱歩賞(第58回)

読後感:
 
 ドストエフスキーの「カラマゾフの兄弟」が未完で、その後の憶測がある中で、前任者の作品を第一部とし、犯人は長男のドミートリー(愛称 ミーチャ)が実刑を受けシベリア鉱山送りとなり、刑の途中で死亡したが、本作品は第二部として、犯罪特別捜査官となったイワンが再捜査をすることで物語が始まる。

 一応「カラマーゾフの事件」の大筋の記述の章も出ていること、事件の裁判の様子、色んな背景などは「カラマーゾフの兄弟」の内容が記述、引用されているので、あたかも続編を読んでいるようである。そして以前読んだときの再現のような感じでもあり、よく分からなかった部分や疑問点のことも記述されていたりとすっかり続編感覚で読んでしまった。

 江戸川乱歩賞の評価では原形を拠り所としていることを批判する批評もあるが、奇抜性や文章の雰囲気が似ていたり(もっともベースが亀山郁生氏の翻訳であるが)と結構続編としてみてもおもしろかった。
 無神論者のイワンと、聖人であったアレクセイの対比、スメルジャコフの不気味さ、いやらしさ(?)、トロヤノフスキーのなにかシャーロック・ホームズのワトソンのような存在がおもしろい。
 とにかくあの長編で難解であった「カラマーゾフの兄弟」のミステリー性に着目して展開される謎解きはなかなかのものである。

   


余談:

 イワンが多重人格者として登場する点、はてな最近読んだ小説の中にあったなあと思ったら、本書の前に読んだ東野圭吾の作品「プラチナデータ」に多重人格の人物が主人公クラスで出ていたため、これはまたと思ってしまった。エピローグではすっかり一人格者となっていたのにはほっとしたり。

          背景画は猫田のブログの本の紹介記事のフォトが印象的だったので借用させていただき。



戻る