高野和明著 『ジェノサイド』








              
2012-07-25




(作品は、高野和明著『ジェノサイド』  角川書店 による。)

             
 

  初出 「野生時代」2010年4月号〜2011年4月号
 本書 2012年(平成23年)3月刊行。

 高野和明:

 1964年生まれ。2001年に13階段で第47回江戸川乱歩賞を受賞し作家デビュー。著書に「幽霊人命救助隊」、「夢のカルテ」(阪上仁志との共著)など。自著のドラマ化「6時間後に君は死ぬ」では脚本・監督も。
 

主な登場人物:

古賀研人(けんと)
父 誠治
母 香織

東京文理大学の薬学部の大学院生(修士課程2年、24歳)。
父親の誠治は多摩理科大学の教授、胸部大動脈瘤の破裂で死亡。
葬儀の5日後、研人に父からの不可思議なメールが届く。
“このメールのことは誰にも言わないように”とのメッセージを付して。

ジョナサン・ホーグ・イエーガー
妻 リディア
息子 ジャスティン

バクダッドで民間軍事会社で護衛隊のリーダー。3ヶ月の勤務後の1ヶ月の休暇に入る直前、1ヶ月ほどの仕事を受ける。
息子が肺胞上皮細胞硬化症の末期症状で、権威の居るリスボンで主治医のガラード先生の治療を受けて大金が必要。

イエーガーをリーダーとする傭兵のメンバー4人
暗号名“ガーディアン”作戦実行メンバー。

・イエーガー チームリーダー。武器取り扱いと狙撃任務。合衆国陸軍の特殊部隊出身。
・マイヤーズ 医療担当。20代、空軍で救助専門の特殊部隊出身。
・ギャレット 通信担当。イエーガーと同年配、海兵隊の武装偵察部隊出身。
・カシワバラ(呼称 ミック) 破壊工作担当。フランス外人部隊出身。

アメリカホワイトハウスのメンバー

・バーンズ大統領
・ワトキンス 国家情報長官
・ラティマー 国防長官
・オランド CIA長官
・ガードナー博士 科学技術担当大統領補佐官

アーサー・ルーベンス IQ高く14歳でジョージア大学に入った秀才。20歳で哲学の博士号、学究生活に区切りをつけホワイトハウスに近い就職先を見つける。“ガーディアンス作戦”立案、“ネメシス作戦”計画の立案者、責任者。
李正勲 研人と同じ大学の創薬物理化学の韓国人留学生。ソフトに詳しく研人の協力者に。
菅井(すがい) 大手新聞社東亜新聞科学部の記者。父の友人。「ハイズマン・レポート」というのを聞いたことはある?と研人に問いかけてくる。
坂井友里 ザイールで父(古賀誠治)と一緒だったという中年女性。共同研究をしていた父のパソコンを頂戴と研人に近づいてくる謎の女性。
ナイジェル・ピアース 人類学者。大手貿易会社「ピアース海運」の御曹司。弟に家督を譲り人類学の博士号を取得、フィールドワーク中心にコンゴの東部、イトゥリの森のジャングルで見たこともない生物“ヌース”と遭遇。ときに戦闘が始まり出られなくなる。

(補足説明)
ジェノサイド:大量殺戮
ハイズマン・レポート:正式タイトル「人類の絶滅要因の研究と政策の提言」
ガーディアン作戦:イトゥリの森に潜入し、ピグミーと呼ばれる民族の狩猟キャンプを殲滅。ナイジェル・ピアースが居るキャンプこそがターゲット。
ネメシス作戦:“ヌース”抹殺計画

物語の概要:

 急死したはずの父親から送られてきた1通のメール。古賀研人は、その不可解な遺書を手がかりに私設実験室に辿り着く。ウイルス学者だった父は、そこで何を研究しようとしていたのか…。超弩級エンタテインメント。

読後感:
 
 古賀研人側、バーンズ大統領側、イエーガーの部隊の活動と3カ所の場面が同時進行系的に展開される。しかも内容も「ハイズマン・レポート」というアメリカのシンクタンクが大統領に提出された「人類の絶滅要因の研究と提言」と題する大きな命題に関わるものである。そんな所からもこの小説がいかにレベルを超えたものであるかが窺われる。
 はたして描写も少し取っつきにくい科学的な記述多数出てきて戸惑いすら覚える。

 そして研人が父の指示では1ヶ月で合成化合物を開発しなければならないことになるとともに、FBIの要請を受けた警察が父への嫌疑と共に、研人にも容疑が向けられ逃げなくてはならなくなる。果たしてどういう展開になっていくのかと第一部の「ハイズマン・レポート」から先が想像を超えたものになっていく。

 第2部の「ネメシス」では第一部の3つどもえの背景が明らかになって事件の全容が判ってくる。監視衛星でジャングル内での様子が監視され、ピアースや4人のオペレーター達の行動が変化していき、一方日本での古賀研人の周りも風雲急を告げてきて超人類(?)と思われる次世代の人間の存在が抹殺されるのか、支援側が勝つのかクライマックスへと展開していく。
  難しい科学用語や諜報活動、人類の進化に関する記述とか空恐ろしい出来事や現実に行われているかも知れない秘密な出来事などが織り交ぜられて次第に事件は核心に。

 人類の進化の起点がはたして現実の世の中に出現する時代が来るのか、そのころに地球は果たして存在するのかたまにはそんなことも考えさせる物語もいいかな。
 結構スケール感もあり、こういう作家もいるのだなあと。

   


余談:
 スケールの大きさという点ではこの作品は相当のものと言える。日常のありふれたことを取り扱い、そこに深い眼差しと心根を織り交ぜた作品もいいし、ときに壮大なものを取り扱った作品もこれまた楽しいし。読書の魅力は限りない。

           背景画は本書の内表紙を利用。



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