<主な登場人物>
福澤栄
妻 睦子
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自民党代議士(1946年より)、自民党青森県連会長 |
福澤優 |
自民党参議院議員(1980 〜86年)、青森県知事(1987年より)
福澤本家の長男。
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福澤肇 |
福澤建設社長、福澤栄後援会連合会長。次男 |
福澤貴弘 |
通産省の官僚。福澤八戸分家の次男。 |
福澤彰之
(母親 晴子 死亡)
(父親 淳三 死亡)
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福澤栄と野口晴子の間にできた子。 |
保田英世 |
福澤の私設秘書、資金管理担当(金庫番)。栄の妹和子の子、喜代子の夫。 |
竹岡 潔 |
福澤の私設秘書、選挙区担当。 |
久保田義己 |
自民党参議院議員(1980年〜) |
久保田健一 |
八戸市長(〜1983年)、義己の息子。 |
重森幸七 |
青森県知事(1979 〜87年 2期8年) |
笹木三千代 |
八戸市長(〜1983年)、自民党代議士。 |
<物語の展開>
<出版社、著者よりの内容紹介>より
保守王国の崩壊を予見した壮大な政治小説、3年の歳月をかけてここに誕生!
父と子。その間に立ちはだかる壁はかくも高く険しいものなのか――。近代日本の「終わりの始まり」が露見した永田町と、周回遅れで核がらみの地域振興に手を出した青森。政治一家・福澤王国の内部で起こった造反劇は、雪降りしきる最果ての庵で、父から息子へと静かに、しかし決然と語り出される。『晴子情歌』に続く大作長編小説。
<読後感>
長く難解とも言えるこの作品をようやく読みきった。下巻の後半からようやくクライマックスとも言える場面となり、あの「レディ・ジョーカー」のときの調子が戻ってきたという感じ。ここに至る過程として前半部分、さらにそのバックグランドとも言える諸々が「晴子情歌」にあったと思える。やはり先の「晴子情歌」を苦しみながらも読み切ったことで物語の最後を感動で迎える事が出来たのではないかと思う。高村薫という著者はなかなかすごい作家ではないか。
青森という郷土にとっては明治時代に貴族院議員だった先々代から四代続いた福澤王国が分裂、崩壊するその歴史は、今日の政治の中でも感じられる事柄を沢山含んでいると思う。そしてそういう政治の世界のみだけでなく、実は父と子の生き方、父から子、子から父の見方、生き方、さらにそれを構成する家族の生き様を最後の場面でばっさりあからさまにしてしまう。 74歳になる一人の父親が、40年間の代議士生活を今までほとんどほったらかしにしていたし、出家して仏の世界に身を置くようになった息子との対話で、最後はその妻や子供のことを頭に浮かばせながら夢うつつとなっていく。壮大な人間の大河ドラマであり、さらに見方によっては私設秘書の金庫番であった保田英世自死の原因を解き明かすミステリーでもある。
いずれにしても、「晴子情歌」における鰊漁、サケマス漁、北洋のマグロ漁の詳細描写や、「新リア王」での国会内での議員先生達のあからさまな振る舞い(総裁選争いの駆け引き、派閥、中央執行部による地方のコントロールなど)、地方と中央との間の駆け引き(陳情の明け暮れなど)や、選挙にまつわること(衆・参選挙での公認、知事選候補決めの実態など)、さらには仏の修行内容(叢林や大本山での修行の模様など)良くも詳細に物語られたことか。 作家という作業の大変さにも畏れ入ってしまう。後半部分になってやっと本来の作家としての物書きが出来たのではないかと推察してしまった。
作品は代議士の金庫番保田英世の自殺の原因を解き明かすミステリーとして興味がある一面、政治家福澤家にまつわる人間ドラマとしての面が大きい。
国会の会期中に脱出した福澤栄が、一番遠い世界にいる息子彰之がいる雪深い筒木坂の普門庵を訪れ、初めて自分の息子と4日間逗留、お互いのことを語る。そして英世の自殺の原因を明らかにするべく、関係者を呼び寄せて明らかにすると共に、その後は家族の諸々が語られる中で、栄の長男優が父親に造反することになる要因(青森郷土での中央との関係を含め実情での拒否感、中央での政治に対する絶望感)、母親の違う彰之に対して、父親は自由に生きることを認めているのに対し、自分は認められなかったことに対する反抗しようとするも父親の壁が高く乗り越えることが出来ず孤独で優しい優。「晴子情歌」での晴子の父親淳三の、福澤の家の一員でいながら、異端児のように小説家を目指し、絵をたしなむ姿とそれを支えた晴子の母親富子の夫婦ぶりが思い起こされ心に残った。
そんな人間の生き方描写に著者の意図を感じさせられた。
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