主な登場人物:
島田浩二 |
島田海運創業者の御曹司、ロシア人宣教師の混血。15年勤めた日本原子力研究所を辞め、今はその世界にまつわる全てのものから身をひいて2年、大阪で全く違う仕事をしていたが・・・。日野とは舞鶴での幼なじみ、江口には有形無形に感化を受けるが、2年前に手を切る。自分を犠牲にしても良を助けようと・・・。島田の人生の空洞は・・・。 |
日野草介 |
島田浩二とは中学まで一緒、高校で離れ別世界に、バクチ好きで今は西成で日雇い生活、妻の柳瀬律子とは柳瀬祐司との縁で結婚するも、律子は謎の女。日野の人生の大穴は・・・。 |
江口彰彦 |
貿易会社を持つスパイの元締め的存在の実業家。プラトンに《北》の資料を預け、《北》、日本政府、アメリカ、ロシアなど各国を手玉にとったゲームを展開する。江口の人生の空洞は・・・。 |
柳瀬祐司
妹 柳瀬律子 |
京大の大学院で原子力工学を専攻、印刷屋でアルバイトをし、日野と安アパート暮らしをしていたがで江口商事に就職、モスクワに2年、その後は江口商事を辞めてピョンヤンに・・・。そして《北》から原子力の技術資料(マイクロフィルム)を持ち帰り江口に渡す。律子も京大法学部で左翼同人誌活動や、デモばかりに夢中になっていた。 |
高塚良
(パーヴェル) |
舞鶴の音海発電所建設現場で労務者として鶴野建設で働いているスラブ系の端正な顔立ちの若者。日野が島田に紹介。実はチェルノブイリの被爆者、父親が技師で爆発した4号炉で行方不明に、父親を探して事故処理に志願。その後病院を逃亡し日本に。 |
ハロルド |
CIA工作員。島田浩二は共産スパイ、彼を利用して《北》と接触させ、情報をとらせることが実入り大きいと。 |
ボルト |
ソヴィエトのスパイ。島田を育てる。 |
山村勝則 |
野党の国対委員長。与党の笹山幹事長の手下。《北》とつながっている。 |
小坂雅彦 |
音海原発で働く主任技師。東海村での島田浩二の後輩。 |
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物語の展開:
荒波に洗われる日本海の、とある断崖にそれはあった。白いコンクリートの巨大な塔で燃えさかるプロメテウスの火。鉄壁の防護システムで制御された火炎を消し去ることが彼ら二人の目的だった・・・。(本書の裏書きより)
読後感:
「リヴィエラを撃て」(93年)と同様、複雑な様相でいて何か哀愁の漂う人間劇といった感じでふとじぃーんとしてきてしまう。 特に日常のさりげない会話や、動作が非現実的な展開のなかでそれを感じてしまうのは、ちょうど島田浩二という青年が合田雄一郎の姿と重なってあの悶々とした悩みを抱えて刑事の仕事をする生活に通じるものがあるようだ。
考えてみると、この作品は1991年に書かれて後、文庫本化される時に全面的に改稿され(95年)、その姿で本書隣っていると言うことで、合田雄一郎が登場する「マークスの山」が出された時期(93年)を考えても腑に落ちるところである。
さて、スパイの世界で男達の友情というか義というか冷酷な面もあるが、底辺では結ばれるところのある結びつきが読者に安堵感を与え、世の中の不条理、平凡で特に取り立てて言う何もない頃の幸せ(?)を感じさせるところは著者の思いが伝わってきて共感するところでもある。
主人公達の持っている空洞、大穴が何であったかを所々でかいま見ながら、最後を迎え、散っていったであろう最後の方の場面は印象的であった。
どうして高村作品は読み終えた後も心に残るものがあるのか、ずっと考えている。
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