高橋治著 『短夜』 

                   
2005-12-25

(作品は、高橋治著 『短夜』(毎日新聞社) による。)

             

 先月の「海の蝶」は1993年1月から京都新聞他に連載された作品。「短夜」は月刊Asahi1990年6月号から199112月号に掲載されたもの。
「海の蝶」が「短夜」の後の1993年に出されたということで、骨董品に関する諸々のことは、「海の蝶」でも踏襲されたことになる。
 カバー表紙には李朝白磁面取壺(部分)とある。

読後感:

 骨董市での競(せ)りの模様、駆け引きの妙、骨董品に関する色々な知識、店の信用など、知らないことが判り、そういう面で非常に面白い。

 女一人でこういう世界を渡っていくことの難しさが伝わってくるのだが、作品全体を通して、「海の蝶」と比べ、何か物足りない。感動するものがいまいちかな。

◇ 主な登場人物
・氏家蔦代
名古屋で「故渓」という店を拠点にもつ、古美術の骨董商。父は名古屋では一流企業の中に入る銀行の頭取をしていて茶人であった。良いものを見て育ったせいで、21才で店を開き、独身。藤堂甲四郎に店で初めて出会い、眼がきくことをほめられ、また「女にしておくのは惜しい」と言わせ、以後可愛がられる。物ごとははっきりと言うし、筋が通らないことは嫌う性分。

・結城伸次郎  相棒、相談相手。妻安江あり。

・藤堂甲四郎 反骨の陶工と呼ばれた名人。野放図で、生き方に特有の偏屈さが加わり、作品は総て無名で出した時期があり、全精力を傾注して古陶の模写を行った時期を経て、名をなす。

・大津幸夫 父の大学の後輩で、頭取が眼をかけている人間の一人、よく家に出入りしていた。蔦代が結核で1年ほど病院に入院している間に、ごく普通の勤め人のお嬢さんと見合いし、すぐに結婚をしてしまう。頭取の娘と結婚してといわれるのが嫌いだった。数年後、出張先の香港で蔦代に出会うことになる。

森園和也  大きな通信社のソウル支局長。結城からの依頼で、ソウルで蔦代の案内役をつとめる。

印象に残る場面
  ソウルから200キロ程離れた田舎(全州)に焼き物を買い付けに出かけたときの、歴史の問題をすなおに感じられたこと。

☆ソウル通信社の森園が、商品を買い付けに来た蔦代を案内する場面。

「あなたは初めてあの国に来た人です。それがあそこに駐在していた僕よりも、ずつと深い人間とのつながりをつくり出した。ですから、あのお婆さんがビビンパブのめし屋にしん辰砂(しんしゃ)の壺を持って現れた時には、物凄いショックを受けたんです。これは一体なんだろうと」

「政治的な変化や世の中の出来事ばかりを追うことでは、ある国家や社会は見えてこない。まして、民族などは視野にも入ってこない。それが見えるようになるためには、文化の中、つまり土壌や人情そのものに親しむ他はない。」

「当たり前のことですよね。でもそんな簡単なことが、僕にはわかっていなかった。あのお婆さんがあなたに、辰砂の壺を探してやらなければいけないと思ったのは、あなたの中に、朝鮮の文化への深い敬慕があったからなんです。」


余談1:
 今年もなんとか毎月の更新が出来たことに よしよし。 来年も心に残る作品、これはという作家に巡り会えたらしあわせ。 また、つたない文章を読んで下さった皆様に感謝、感謝!


                               

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