高樹のぶ子著 『満水子』







                 
2007-10-25


 (作品は、高樹のぶ子 『満水子』(上)、(下) 講談社による。)

           
 

 東京新聞、中日新聞、西日本新聞、北海道新聞に平成12年5月8日から平成13年5月6日まで「満水子1996」として連載。
 2001年10月(平成13年)刊行

高樹のぶ子:

 1946年山口県生まれ。「光抱く友よ」で芥川賞を受賞、その後も谷崎潤一郎賞とか多数あり、2001年より芥川賞選考委員。

 ◇ 主な登場人物:

・坂本重治 ノンフィクション作家48歳。主としてスポーツ関係者を扱っている。湯浅満水子の人物ドキュメントの記事を書くため湯浅満水子と親しくなり、その支離滅裂な部分に振り回されながらも惹かれていく。
・湯浅満水子 女流画家、水をテーマにした作品で評判を取る。アトリエを京都の姉(吉田木美子)の家、函館、河口湖にもつ。
 秘密が多く、出身地の嘘、両親の事故死、家の火葬写真、吉田泉との関係など謎の多い精神不安定な、過去から逃げる女。
・落田時子 銀座、ギャラリー落田のオーナー。絵の世界では名前も実力もそなわつており、満水子の絵の才能を見出し、彼女の絵に惚れて専属契約をする。
・落田照彦 時子の息子。自分の目や足で仕事をするカメラマン、日本の古い物や習慣に興味を持ち、失われた幻に執着する方。
坂本重治の助手的役割を果たすことに。
・吉田泉 満水子の姉木美子の夫、京都府の役所の人間。木美子は事故で植物状態となり、京都渡月橋の下流松尾橋のふもとで看病している。
 満水子の住居はその桂川の対岸のマンションである。満水子とは深いつながりをもつ。
・吉田世木代
  (せぎよ)
吉田泉、木美子の子供、満水子の姪にあたる。木美子が植物状態になり、岐阜の郡上八幡に預けられている。
読後感

 NHKラジオ深夜便で高樹のぶ子の話を聞き、一度読んでみようと思う。ラジオの内容は、還暦になってブログを立ち上げ、時々アジアを訪れ、アジアの心の情報を発信している(WEB SIAサイア)という。声もハツラツとしていて、年齢を感じさせず、凄く前向きに生きておられるのに興味を持った。

 「満水子」なる女性が画家であることに興味を覚えたが、どうも性描写のあたりは好きではない。途中止めようかと思ったが、内容はミステリアスなもので、満水子のとらえどころのない、場所により、時間により、状況によって変化する態度に、坂本重治と同様惹かれていってしまっていたのかも。最後まで読んでしまい、まんまと著者の術中にはまってしまった。

 それに、作品に登場する場所が、かって自分が訪れたところのある場所で、記憶にもはっきりとまだ残っていることも惹かれた理由でもある。
 京都渡月橋の側の嵐流莊は当時泊まろう考えたこともあったが、すぐ手前の宿にしたところ。また、函館の大沼公園も思い出のある場所で、この作品を読んでいたら、さらに趣を感じられたのになあと。とはいえ、知っている場所が作品に登場すると、すごく身近なものに感じられ、現実味をおびてくるものだ。


余談:
 取り上げようとして初めて接する著者の本には、自分の肌に合わない物にも出会う。この作品なんかの場合、ちょうど中間的な存在である。でもこんな作品に出会うことも貴重な体験として喜ばしいと思う。また別の作品も読んでみたい。
 背景画は作品中にも出て来る大沼国定公園のスナップ。(2002/9 撮影)

                    

                          

戻る