多島斗志之 『黒百合』



              2022-06-25


(作品は、多島斗志之著 『黒百合』    による。)
                  
         
 
  
  
本書 2015年(平成27年)8月刊行。

 多島斗志之
(たじま・としゆき)(本書による)

1948年生まれ。早稲田大学卒。 82年、多島健名義で執筆した「あなたは不屈のハンコ・ハンター」で第39回小説現代新人賞を受賞。 85年「(移情閣)ゲーム」(別題「龍の議定書」)で本格的にデビュー。 89年に「密約幻書」、91年に「不思議島」がそれぞれ直木賞候補となる。「少年たちのおだやかな日々」「海賊モア船長の遍歴」「症例A」「離愁」「感傷コンパス」 など著作多数。

主な登場人物:

寺元進
父親

夏休みを利用して東京からひとり、浅木一彦の別荘に泊まりに来て過ごす。
・父親 東京電力勤務。浅木氏とは懇意。

浅木一彦
父親 謙太郎
母親
(おばさん)

進と同じ14歳。六甲山の山の上の別荘(山小屋)に進を迎える。・父親 宝急電鉄の運転士。進の父の古い友人。
・おばさん 木の玩具づくりをしている。

倉沢香
義母
父親(没)

六甲山の大きな別荘、ヒョウタン池のそばの別荘の子。神戸女学院の生徒。ヒョウタン池で遊ぶ一彦と進の姿を見て知り合う。
・義母 香に対して厳しくあたっている。
・父親 8月5日の西宮近辺の空襲で死ぬ。

倉沢日登美
夫 新也

香の叔母。香をまもる唯一の人物。
・新也 倉沢家に婿入り、倉沢家の事業を差配。

倉沢貴久男 日登美の長兄。
倉沢貴代司 日登美の次兄。デカダンス(退廃的)な人。
駒石 倉沢家の運転手。ハンサムな男。
小芝一造 宝急電鉄の会長、東京電燈(後の東京電力)の社長兼務。
相田真千子 昭和10年、小芝翁の視察に、寺本の父親と浅木の父親が、秘書として付き添ったとき、ベルリンで、ひとりでいるのを見かけた女性。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 父の古い友人に招かれた「私」は、別荘に到着した翌日に一彦とともに向かったヒョウタン池で、池の精と名乗る少女に出会う…。1952年夏、六甲で出会った3人の少年少女。文芸とミステリが見事に融合した傑作。

読後感:

 東京に出張してきた浅木さんを、父が家に招いて歓待したとき、「夏休みになったら、六甲山の小さな別荘に来ないか」と、私(進)に言ったことで、ひとり別荘に出向き、同い年の一彦と過ごしたことで出会った、やはり同い年の倉沢香という、不思議な少女との淡いが、純情心溢れる交流が、みずみずしい文章と共に展開する昭和27年(1952年)の夏の物語。

 その中に、昭和10年、進の父と一彦の父が、小芝一造翁の秘書役として海外視察旅行に行った時の情景が挿入され、そのベルリンで出会った相田真千子なる女性が登場していて、後々の展開に伏線として挿入されている。

 進、一彦、香の三人の交流の様子は、実に文芸作品の香りがしていて、ついついどっぷりと物語の中に浸かってしまっていたが、香の少々複雑な境遇を知り、義母からの扱いに抗しながら逢瀬を重ね、やがて夏休みが終わりに近づくと、果たして香とふたりの関係はどういうことに発展するのか。
 一方で、突然殺人事件が起き、今まで脇に追いやられていたかに見えた事柄が、入れ替わって、あぁそういうことだったのかと、読み返したくなってしまう。
 鮮やかな組み立てに感動さえ。


余談:

 舞台が六甲山、宝急電鉄(実際は阪急電鉄)といったことから、学生時代に通っていた場所に関係のあるところでもあり、なおさら惹かれる作品でもある。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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