周防柳著  『 虹 』


 


              2015-07-25





(作品は、周防柳著 『 虹 』    集英社による。)

       
  

 初出 本作品の一部は、集英社Web 文芸「レンザブロー」に掲載。
     (2014年10月〜2015年2月/第4章まで)

 本書 
2015年(平成27年)3月刊行。

周防柳: (本書より)

 1964年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2013年「八月の青い蝶」(「翅と虫ピン」改題)で、第26回小説すばる新人賞を受賞して作家デビュー。同作は、2015年に第5回広島本大賞「小説部門」大賞を受賞した。他の著書に六歌仙を描いた「逢坂の六人」(2014年)がある。
主な登場人物

坂井晶子(私)
(本名 藤井)
娘 楓子
元夫 修司

堅物だが人に対しては寛容、厳しいのは自分に対してだけ。
楓子の死で一時生き甲斐を失うも、楓子の死の原因を調べるために辻と調べ出す。
・楓子 大学3年(20歳)でSから身を投げた。警察では自殺と。今までに3度死んでいるがそのたびに生きのびている。
・修司 外面は最高によいのに、家庭では最低。浮気を機に10年前離婚。

探偵、本郷で「辻調査事務所」を営む元刑事、40代半ば。
フリーター、19歳。楓子と交際あり、いかにも女子高生にもてもての風貌。どこまでが本物で、どこまでが演技なのかはかりがたい人物。数奇な過去を持つ。
Sマートのひとびと

・店長 青柳
・息子 啓太 実質的に店をしきる、H大学の2年生。
アルバイター
・R  (上述)
・私  (上述)
・美咲 近隣の美術大3年生。見るからにアート系。
・増田 会社のリストラで、50過ぎ。風采のあがらぬ善意の人。

物語の概要 図書館の紹介文より。
 

 晶子は離婚した後、ひとりで子育てをし、やがて娘は大学生となった。ところがある日突然、最愛の娘が溺死体として発見される。一体何が起きたのか。探偵と組んだ命がけの追跡が始まる…。罪と罰の意味を問う衝撃作。

読後感

愛する娘(楓子)の死にひとり呆然となり、生きる意欲もなくなった晶子(私)がようやく楓子の死の原因を調べることに生き甲斐を見いだし、Rという男について調べ出す。

 物語は楓子の生い立ち、私と夫との成り染めから離婚などの成り行き、そしてRのこれまた数奇な人物像となかなか読者を退屈させない展開で読者を引き込んでいく。
 辻という探偵もたくましさと狡猾さを織り交ぜた雰囲気で死の原因に迫る。
 ラスト、Rを追いつめたところでの私の行動、その後の顛末はこの小説のとっておきの展開に。
 読み終わった後に、何かさわやかさを感じさせることに。こういう顛末のつけ方はちょっとうらやましい。楓子の思いもくみ取った、意外でもあり、潔い閉め方に感動さえ感じた。
 それにしてもRの性格、行為はとても許されるものではないけれど。

 

余談:

 周防柳の作品は以前「八月の青い蝶」でその瑞々しい文章に感銘を受けたのが印象的で、その作家の作品を読みたくなった。本作品の中に臨死体験のことが記されている。そして自殺の話題で”そういえば、高いところから飛び降りると、着地するまでの間に一生分の思い出がよみがえると聞いたことがある。どんどん落下していく。でも地面がいつまでも近づかない。その間に色んなことを考える。小説だったか。ルポルタージュだったか。そんな話しがどこかにあったじゃないか。”と。
 そう、中村文則の作品「土の中の子供」(芥川賞作品)にあった。周防柳という作家の描写にも、中村文則と同類のものをふと感じた。

背景画は、主人公の勤めるバイト先であるコンビニ店内の風景。

                    

                          

戻る