砂原浩太郎 『高瀬庄左衛門御留書』


              2021-08-25


(作品は、砂原浩太郎著 『高瀬庄左衛門御留書』    講談社による。)
                  
          

 
初出 「おくれ毛」は小説現代2018年8月号に。その他の章は書き下ろし。
 本書 2021年(令和3年)1月刊行。

 砂原浩太郎
(本書より)
 
 1969年生まれ、兵庫県神戸市出身。早稲田大学第一文学部卒業。出版社勤務を経て、フリーのライター・編集・校正者に。2016年「いのちがけ」で第2回「決戦!小説大賞」を受賞。著書に「いのちがけ 加賀百万石の礎」、共著に「決戦!桶狭間」「決戦!設楽原」(いずれも講談社)、また歴史コラム集「逆転の戦国史」(小学館)がある。

主な登場人物:

高瀬庄左衛門
妻 延(没)

小者 余吾平

神山藩、父子揃って郡方(こおりかた)勤め。絵を趣味としている。若い頃は普請組四十石の原田家の次男坊。剣術に血道をあげ、影山道場に出入りしていた。朋輩の中に定岡市兵衛(その頃は市之助)。
・延 3つ年下、2年前みまかる。
・余吾平 60超え。庄左衛門の屋敷に住み、郷村
(ごうそん)廻りには常に同伴している。

高瀬啓一郎
嫁 志穂

庄左衛門の後を継ぎ郡方に、慣れぬ郷村廻りで不慮(?)の事故で死亡、23歳。
・志穂 1年前嫁いできた。実家は秋本家。啓一郎の死亡で、子のないことから実家に戻るも、自身の稼ぎ口にと、庄左衛門に絵の手ほどきを求め、出入りする。

定岡市兵衛 郡方支配(庄左衛門と同輩)、庄左衛門の上役。癖のある人物。
金子信助(しんすけ) 庄左衛門と同年配で定岡に追い越された口。郡方のまとめ役。
神山藩関係者

禄高10万石、二百年も前に別れた本家は、日の本有数の大藩。
・藩主 山城守正共
(まさとも)35歳。
・側用人 鏑木修理
・朝比奈外記
(げき)鏑木修理の家宰(かさい)
・筆頭家老 宇津木頼母(たのも)20年以上その職にいる。50後半。
・山野辺雅樂
(やまのべ・うた) 目付役筆頭

立花弦之助
父 監物
(けんもつ)

立花家次男。藩校・日修館で高瀬啓一郎と首席を争い、勝ちをおさめ江戸に遊学、神山藩に戻って日修館の総帥に。庄左衛門は、その家柄、俊秀ぶり、容姿に嫉妬感を抱いているが・・・。
・監物 立花家は三百石の目付役。
・戸田茂兵衛 立花家の家宰。

秋本宗兵衛
娘 志穂
長男 宗太郎
次男 俊次郎

秋本家は勘定方の下役。三十石の小身。
・宗太郎 志穂の弟、18歳。富田
(とだ)流の影山道場で一、二を争う腕前。
・俊次郎 次男 志穂について庄左衛門の組屋敷にも。

次郎右衛門 新木(にいき)村の庄屋。新木村は高瀬庄左衛門の受け持つ二十ケ村でも領内有数のもので穫れ高は二千石を超える。
うの

次郎右衛門の片腕の娘。立花家から側女に乞われるも、身ごもったことが知れると、正室の折檻受け・・・。次郎右衛門に引き取られる。うのの子福松は5歳になって立花家に引き取られた。
立花弦之助である。

芳乃(よしの)

影山道場のあるじ哲斎(てっさい)のひとり娘。
若き日の宮村堅吾、碓井慎造、原田壮平(後の高瀬庄左衛門)が婿争いをし、堅吾が試合で勝ちを収めたいわれがある。

影山敬作
父親 甚十郎

影山道場の跡取り。 杉川で水死しているところ見つかる。
影山家は百石に満たず、道場主は甚十郎。
・甚十郎 物堅い質の男。庄左衛門にとっては、若い頃見知った仲。

半次 柳町の小料理屋の前で蕎麦の屋台を出している。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 神山藩で、郡方を務める高瀬庄左衛門。50を前にして妻を亡くし、息子をも事故で失い、ただ倹しく老いてゆく身。息子の嫁・志穂とともに寂寥と悔恨の中に生きていたが、ゆっくりと確実に、藩の政争の嵐が庄左衛門を襲いくる。命の輝きに満ちた時代長編。

読後感:

 久方ぶりの時代物、綴られる文章は流れるようで、文章の難解な表現も健在。
 物語は主人公の郡方本役の高瀬庄左衛門を中心に、神山藩に起きる、奉行の元に胡乱
(うろん)な投げ文(領内に不穏な動き)が意味する事件が、根底にあり筋が一本通っている。
 そして庄左衛門の隠居後、息子の啓一郎が郷村廻にひとり出て行った先で、断崖から落ち死亡することから、再び復帰、季節の移り変わりに起こる出来事の描写から、次第に事件の核心へと展開していく。

 啓一郎の嫁であった秋本志穂が魅力ある女性として存在し、立花弦之助という若者の数奇な運命と若者らしい振る舞い。読者にとって、目付役の父立花監物と側用人鏑木修理、筆頭家老宇津木頼母の存在とその人物の善悪の見極め模様が。
 はたまた、余吾平と半次の存在も興味あるものがある。

 啓一郎の死、鹿の子堤
(かのこつつみ)の出来事もラストではその実態が明らかになっていく。物語を通して記憶にとどめておかないと惜しい思いを抱くことに。


余談1:

 時代物にはなかなか難解な字句、表現が出てきて戸惑うことが多い。
   ・減知(げんち)
   ・知悉(ちしつ)
   ・賢しら(さかしら)
   ・肯う(うべなう)
   ・まなうら:瞼の裏の意味
   ・小体な(こていな)
   ・禍々しい(まがまがしい)
   ・階(きざはし)
   ・行行子(よしきり)の鳴き声
   ・木通(あけび) 
   ・家宰(かさい):家の仕事を家長に代わって執り仕切る人。  など


余談2:

 澤田瞳子が薦める文庫(2021年7月3日付け朝日新聞)によると、「いのちがけ」加賀百万石の礎に、藤沢周平、葉室麟亡き後絶えている武家小説の伝統を継ぐと期待される著者との評があった。うなずける。 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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