スタンダール著
                (野崎歓訳)
 
          『赤と黒』





              2013-05-25



 本作品はスタンダール著「赤と黒」(野崎歓訳) 光文社文庫による。

               
  

 本書 2007年(平成19年)9月刊行。光文社古典新訳文庫

スタンダール:(本書より)

 1783年生まれのフランスの小説家。代々法曹家を生んだブルジョワの家庭に生まれる。7歳の時熱愛していた母親を亡くす。その反動からか、王党派の父親に激しく反発し、自らは共和主義者となる。ナポレオンのイタリア遠征に参加し、陸軍少尉に任官。この時から生涯、イタリアを愛することになる。その後は官僚となり、多彩な女性遍歴など、派手な生活を送る。この間、「恋愛論」「赤と黒」等を書きあげる。1842年、卒中で死去。

 野崎歓:

 1959年生まれ、東京大学文学部准教授。フランス文学研究の他、映画評論、文芸評論、エッセイなど幅広く手がけている。著書に「フランス小説の扉」「赤ちゃん教育」ほか。
訳書に「逃げる」「ある秘密」「幻滅」「ちいさな王子」など多数。

 

主な登場人物: 

ジュリヤン・ソレル
(主人公)

フランスヴェリエールの小さな町の貧しい材木屋の息子。父親や兄弟からしいたげられて育つ。司祭見習いとしてシェラン神父に師事。レナール家に子どもの家庭教師として雇われる。
上流社会に対して憎しみと嫌悪しか感じていなかったが、美しいレナール夫人と接して初めは美しさ故に嫌っていたが・・・。
パリに来てラ・モール侯爵の秘書として雇われ、ラ・モール嬢と接し、初めは無視していたがいつしか恋心に火がつく。ナポレオンを崇拝。軽蔑されることには我慢が出来ない。

ド・レナール氏
レナール夫人
小間使い エルザ
レナール夫人の友人:
デルヴィル夫人

ヴェリエールの町長。極め付きの王党派、貴族。
レナール夫人 30歳位の町で一番の美人。ジュリヤンに恋いこがれる。

シェラン司祭 ジャンセニスト。対立するイエズス会からやがて解任される。
ヴァルノ氏

貧民出身の貧乏収容所の所長、金満家。気位が高く、レナール夫人に言い寄るも見下され、ジュリヤンとのことをレナール氏に匿名の手紙で知らせる。
収容所長職は王党派政府による指名。

フーケ 若い材木商。ジュリヤンの友人。ジュリヤンに共同経営者の話を持ちかける。素朴で善良な男。

ラ・モール侯爵
夫人
兄 ノルベール伯爵
娘 マチルド

パリに住む、シェラン氏の友人で大貴族。ジュリヤンを秘書として雇う。
マチルド 気位が高くまだ若い美人、クロワズノワ侯爵と結婚の約束があるが。移り気、毎日が退屈でサロンでは毒舌で周りの取り巻きをまく。そんな中、特異なジュリヤンに関心が向かう。

ピラール校長
カスタネード副校長

ブザンソン(県庁所在地)にある神学校の校長。
ジュリヤン、パリで神学校に入学。ピラール神父はシェラン神父の友人でジャンセニスト。ジュリヤン、ピラール神父の秘蔵っ子として要注意人物に。
副校長のカスタネード神父はピラール神父の敵。

フリレール神父 偽善家で野心に燃えるイエズス会士、副司教。ブザンソン(県庁所在地)を支配している。


読後感: 

 読み出すキッカケが高村薫の「冷血」の作品中、医師の一家四人家族殺人事件の被害者、中学1年の早熟(?)の女子学生が読書好きで読んでいたという文章。この女子学生の人物像に惹かれ、どんな内容か読んでみたくなった。

 果たして、生まれは卑しいが、誇り高い心の持ち主であるジュリヤンの恋多い?神学生の出世物語。
 でも本当のところフランスのナポレオン亡き後の時代、王政復古の時代背景を知っていないと小説の面白さが半減するという解説を見て、よく理解して読むと、展開がおもしろそうだ。

 ともあれジュリヤンとレナール夫人との恋愛ゲーム、そしてラ・モール嬢(マチルド)との恋の駆け引き。気位の高い毒舌と心変わりの激しいマチルトお嬢さんと方や身分の低さ、引け目を感じては色々揺れ動く感情に左右されながら、貴族社会を泳いでいくジュリヤンの頼もしさ?は恋愛小説としての面白さという点からも結構おもしろいのでは。

 最後まで読むとこの作品の良さが分かった気がしてくる。そして解説に記されている事柄がなるほどと理解できてくる。やはり読み継がれている作品であることがわかった。

 解説を見てこの作品のベースというかヒントになっている実際の事件のこと、歴史上にもからむ色々な問題があると言うことを知って繰り返し読む必要があるなあと思った。

 ラストのジュリヤンの結末、現在ではそんな結果はあり得ないことと思うが、なんとも意外なように思われた。それにしても、ジュリアンの奇異な行動、マチルドの移り気とも言える特異な行動、レナール夫人のいちずさ、表題の“赤と黒”の意味を考えると心に残る作品であったかなあ。
 

印象に残る場面:

 ピラール神父がパリに住む大貴族ラ・モール侯爵にジュリヤン・ソレルを秘書として使ってみてくれないかと勧めの場面でのジュリヤンを評して:

「この若者は生まれは卑しいが、誇り高い心の持ち主で、もしその自尊心を傷つけると、何の役にも立たなくなります。全くの鈍物になってしまうのです」 

  

余談:

 今まで何冊かの海外文学作品を読んでみて感じることだが、有名な作品がこういう内容のものだったのかと満足感は得られるが、日本の作品では、時代のことも分かり、土地のことも分かって読むのとかなり異なった感触というのが率直な印象であった。
 すっかりのめり込んだという作品はマーガレット・ミッチェルの「風と共に去りぬ」が一番だったか。

背景画は、作品中のフランス ブザンソンの街並み風景より。 

                    

                          

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