曾野綾子著 『ブリューゲルの家族』

                     
2005-04-25  

(作品は、光文社 曾野綾子 『 ブリューゲルの家族 』 による。)


       
 この作品は見知らぬ読者より、自分宛に送られてきた手紙を紹介する形で作品はなっている。 内容は、ブリューゲルの作品を通して感じたこと、知恵遅れの24才の息子円(まどか)の回りに起こった事柄との関わり、エピソードなどである。 見知らぬ読者なる人物(私)の素性は、年齢54才、20代の終わりに、好きでもなかった夫と結婚。 夫は一流大学を出て、一流の秀才コースを歩み、60才で定年を迎えて、二度目の勤めで子会社の役員である。
 会社の人からは、「ああいう朗らかでよく気のつく旦那さんと一緒に暮らしておられたら、おもしろくて堪らないでしょうね」といわれる。 夫は、自分より家柄のいい家から嫁をもらいたくなかった。 自分が威張っていられる相手として、私のような平凡な娘を選んだのだと思う。
 息子が知恵遅れということ以外、ごく普通の感覚の家庭である。

ブリューゲル(bruegel)

 フランドル地方の画家。 16世紀ネーデルランドを代表する画家。ブリューゲルの絵では、全体のみならず、細部にこそ多くの面白さが潜んでいる。 見るたびに新しい発見がある。(インターネツトHPより)
補足:現在のベルギー、リンブルク州に生まれたと推定される。
〇ブリューゲルの絵のサンプル2例  

ノベルの塔
雪中の狩人
出典:IPA「教育用画像素材集サイト」 http://www2.edu.ipa.go.jp/gz/


印象に残った所:

日頃芳しくない主人の立ち居振る舞い言葉であるが、こんな所があることには立派。

第12章 足なえた人たち

◇私の高校の時の友人である朝海さん: 妻子のある人を好きになり、漸く別れた後、車椅子の人と結婚することを決めたことについて、主人が反対したが、
(朝海さん)
「お宅の奥さんは、円ちゃんと暮らすことを少しも嫌がっていないじゃないですか」
主人の言葉
「親子は別ですよ。 断ち切ることのできない関係だから、選ぼうと思ったこともないんです。でも夫婦は違いますよ。 別れても行ける関係なんですから」

「どうして?それほど好きだったの?」と(朝海さんに)尋ねたことがあります。
(朝海さん)
「今逃げだしたら私の一生は失敗するような気がしたの。 そのまま魂が腐っていくような感じがしたの。」

 その後の結婚生活は長続きしなかった。 働きに出ていた朝海さんの留守に、その人は、階段から車椅子ごと落ちて、頭を打って亡くなりはしなかったが植物人間になってしまった。
あれは、自殺しようとしたとしか思えない、という人もいました。
 体や心に病気を持っている人は、しばしば周囲の人の中から聖性を引き出します。 だから、この過酷なまでに現実的に描かれた「足なえた人たち」も神が使わされた人達なのだと、ブリューゲルはわかっていたでしょうか。

感じたこと:

 曾野綾子さんはクリスチャンだとは聞いていたが、以前の作品 『神の汚れた手』もそうだったが、ときどきはこのような作品を読んで、自分の心を洗濯する必要があるなあと感じないわけにはいかない。

 今回の作品は、以前の作品程重々しい気持ちで読む必要もなく、特に自分があたかも作品中の主人の感覚に近い性質(それ程でもないけれども)の人物が出てくるので、是はひどいなあと批判出来る程度であることと、障害の子供(円)を持つ母親が、円を持ったことを幸せに感じていることに救いがあるため、さらっと読めるのも好い。

 ささやかなことに喜びを感じ、また、人の好意、情けを素直に感じられる心を持ち続けることが必要だなあと、読んだ後さわやかになったのが嬉しい。

   


余談1:

 背景に使った画像は、横須賀鎮守府長官邸の庭園にある、ソメイヨシノの木の懐に抱かれて可憐に花を咲かせているのに魅せられて。
 


                               

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