山本周五郎著 『さぶ』





                 
2011-11-25



 (作品は、 山本周五郎 『さぶ』 山本周五郎小説全集18 新潮社による。)


                  

 本書 昭和42年(1967年)8月刊行。

 山本周五郎:
 1903年(明治36年)、山梨県生まれ。横浜市の小学校卒業後東京木挽町の質店山本周五郎商店に徒弟として住み込む。1926年(大正15年)「須磨寺附近」が文藝春秋に掲載され文壇出世作になったが、その後不遇時代が続く。「日本婦道記」が1943年(昭和18年)直木賞の候補に推されるも辞退。1958年(昭和33年)代表作「樅の木は残った」を完成。以後次々と代表作を発表。1967年(昭和42年)死去。


主な登場人物:

さぶ 経師屋芳古堂の子飼い職人のひとりだが、いまだに糊の仕込みを任されるだけ。「すみのえ」のおのぶを好きになり、栄二とよく出かける。
栄二

さぶの兄弟子、年は同じ。経師屋芳古堂の子飼い職人のひとり。
目端が利いて腕がよい。綿文のおすえを嫁にすると約していたが、濡れ衣を着せられ寄場送りに。

おすえ 綿文の中働き。栄二の嫁になりたいと願っている。
おのぶ 料理屋「すみのえ」の娘。さぶが好いていること知っているが、どうしても好きになれないと。栄二を好いている。

芳古堂

表具と経師(きょうじ)とで格も高く手堅いので知られている。
・親方 芳兵衛
・和助 職人頭。

綿文(わたぶん)

大きな両替商。主人は徳兵衛。娘おきみとおそのがいて栄二は人気者。いずれどちらかが栄二と結婚するという噂も。
高価な切れが無くなり、栄二の道具袋から出てきたことから栄二は芳古堂から追放され、行き先を知らせず姿を消す。

石川島の人足寄場

この寄場は他の牢と違って収容者を罪人とは見なさない。
・与吉 女房を殺し損ね、一生この島で暮らしたいと。
・清七 油絞りのこぶっていう渾名のべらぼうな力持ち。女置き場のおとよに惚れてトラブル。
・差配役 松田権蔵(赤鬼)

役人

・町廻り与力 青木功之進
・北町上席与力 青木又左衛門
・役所詰め元締め同心 岡安喜兵衛

読後感:

 瀬尾まいこ著の 「図書館の神様」 の中で1年契約の高校の講師になり、文芸部の顧問となった主人公の早川清が、部員が一人しかいないその垣内君から投げかけられた質問 「さぶの主人公は誰?」 というのがキッカケで読むことに。 山本周五郎の作品は 「樅の木は残った」 と 「ながい坂」 を読んでいるので、読むのに躊躇はなかった。 (ただ「虚空遍歴」だけ途中で投げ出した経験がありちょっと引っかかりが残ったが)

 なるほど話は栄二が中心で、さぶは愚図でのろまで口べた、でも栄二のことを本当にしたって頼りにしているという裏方の人間。 栄二の心の支え的な人物のようである。
 やはりこの作品の主人公は栄二である。

 なぜ題名が“さぶ”となったか? 
 本の最後の解説(土岐雄三氏)にあるごとく対比による効果を狙ったもの。 早川清の返事はどうだったか? 確か “当然さぶでしょ。 ドラえもんののび太と同じこと” のような。 そしてまだこの作品「サブ」を読んでいなかった状態で。

 栄二の寄場での3年間の出来事がいままで自分本位でしか物事が考えられなかったのが、色んな人の支えがあり、頼られ、思われて今日があることを悟り、憤怒と復讐のみの心で過ごしてきたのが、その怒りが消え、さぶの心遣い、おすえやおのぶの思い、岡安や青木の心遣いを感じられるようになるという市井ものの物語がさわやかに展開されている。

印象に残る場面:

役人岡安喜兵衛が栄二に言う言葉:

「おまえは気がつかなくとも、この爽やかな風にはもくせいの香りが匂っている。 心を静めて息を吸えば、おまえにもその花の香りが匂うだろう」
   

余談:

 瀬尾まいこの 「図書館の神様」 で垣内君に質問されて “さぶ” を読んで感銘を受けた早川先生の言葉、「栄二は成長し、おのぶもおすえも成長し、時は流れる。 だけど、さふ゛は変わらずにひたすら栄二を見守っていた。私もさぶのようにもっと愚直でいられればいいのに。 そう思った。」 とある。
 
背景画は、作品中の経師屋の仕事をイメージして。

                               

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