雫井脩介著
                 『クローズド・ノート』

                     

                             

                                   2011-07-25


 (作品は、雫井脩介 クローズド・ノート   角川書店による)
  

            
  

初出 「文庫読み放題」ほか携帯読書サイトにて平成16年10月から17年8月まで配信された連載小説に加筆、訂正し書籍化。
本書 2006年(平成18年)1月刊行。(2007年に映画化された。)

雫井脩介:

1968年愛知県生まれ。専修大学文学部卒。2000年に第4回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作「栄光一途」でデビュー。2005年に「犯人に告ぐ」で第7回大藪春彦賞を受賞。著書に「虚貌」「火の粉」「白銀を踏み荒らせ」など。
 
物語の概要: 図書館の紹介より

  香恵はある日、前の居住者が置き忘れたノートの束を見つける。そのノートが開かれた時、彼女の平凡な日常は大きく変わり始めた…。携帯サイトで100万アクセスを突破。「犯人に告ぐ」の俊英が贈る、新たな感動作。

主な登場人物


堀井香恵(主人公) 教育大学の2年生。小学校の先生を目指している。マンドリン倶楽部に属し、アルバイトで駅前の〔今井文具店〕の万年筆売り場を受け持つ。
葉菜 香恵といつも一緒だった仲良しの同級生、一念発起で9月から1年間アメリカに留学を実行。鹿島との恋に悩む。
真野伊吹 小学校の若い先生。香恵が借りたマンションのクロゼットに残された生徒達のメッセージカードや伊吹‘snote に生徒達とのこと、彼氏の隆とのことが綴られている。
(リュウ) 大学時代グループで伊吹先生とも付き合っていたが、伊吹先生がふられ、離れていく。再会し伊吹先生との仲は・・・。
今井可奈子 〔今井文具店〕の社長のひとり娘、26−7歳。万年筆売り場の看板娘。香恵の相談役、鋭い人であるが結構無責任なことも言うから困る。
鹿島 父親が行政書士事務所の所長をやっていて、いわば2代目の25歳。鹿島さんも留学経験有り、葉菜と付き合っているが、遠く離れることで疎遠になりがち、香恵に好意を持ち出す。
石飛隆作 香恵の大学OB、美術科卒。イラストレーターを目指している。香恵が万年筆売り場で万年筆を売ることから出会いが始まり、香恵が好ましく思っている人物。

読後感:

「犯人に告ぐ」を読んで次ぎに手にしたのがこの作品。予備知識がなかったので何か推理作品か、ミステリーかと単純に思っていたら、バイト先での万年筆売り場でのお客と売り手の商売のこつのような話に。 万年筆の知識は自分にとっても面白いし、売り方の妙味もおもしろく引き込まれてしまう。 話が進んでなんだかメルヘンチックというか、小学校の先生と生徒達のやりとりが始まる。 伊吹先生の人物像がこれまたいい感じ。
 
 それが好きな人との間のうまく伝わらない恋愛のお話になっていくと、すっかり前の作品のことは忘れてしまって、こういう作品も書くのかと感動。
 伊吹先生と隆の恋のゆくへ、香恵と石飛、鹿島の二股?の関係、葉菜との友情をどうするのか。 加奈子さんの歯切れのいい鋭くもあり、無責任ぶりのある批評も小気味よく、どうなることか興味津々。

 伊吹先生のノートに、自分の有り様を見つけ、勇気をもらって突き進む香恵の姿がすがすがしい。 やっぱりこれは恋愛小説だったのかと。
 ラスト、石飛隆作の個展開催前夜のパーティのシーンの感動的な盛り上がりに自然と目頭が潤み涙で文字が読めなくなっていた。
 若い人には恋の手ほどきの参考になりそう。


印象に残る表現:

 葉菜ちゃんとの関係をないがしろにし、私(香恵)に好意を持ち、振られたら今度は別の女の子とちゃらちゃらする鹿島を見て香恵が放つ言葉:

「鹿島さん・・・葉菜ちゃんは一人しかいないんですよ」 ・・・
「葉菜ちゃんは、はかなくて尊い命を持った存在なんです。一度きりの人生をひた向きに送ってるんです」 ・・・
「彼女と出会って、その輝きに触れるのは、奇跡的なことなんですよ!」 ・・・
「鹿島さん・・・お願いですから、そんな薄っぺらい生き方で彼女に関わらないでください。 まやかしの手で人の輝きを取ろうとしないでください。 せめて、言葉と気持ちが等しい人間として、彼女の前に立ってください!」


 

余談1: 

 作品の最初に真野伊吹先生の手紙に出てくる“隆”という男性、最初チラットそんな気がしないでもなかったがやはり推理作家らしくその筋が現れた。 そしてこういう作品も後書きに著者の長姉の経歴が記されていてなるほどなあと理解出来た。

余談2: 

 ペンの運びのあらゆる方向をそろえているということで、万年筆の試し書きには「永」という字がいいらしい。その時はもちろん知らなかった。それを知ってからは、試し書きのレパートリーに「永遠」という言葉を加え、これを書けば知っている人にはなかなかの通に見えるかなと、一人で悦に入ったりしていた。

           背景画は主人公の堀井香恵が持っていたというドルチェビータ・ミニの万年筆。                     

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