白川道著
                   『天国への階段』







              
2011-03-25



(作品は、白川道著 『天国への階段』     幻冬舎 による。

               
 

 初出 東京新聞に平成9年6月から平成10年9月まで連載を原型に大幅に加筆・修正し書き下ろす。
 本書 2001年3月刊行

 白川道:

 1945年北京生まれ。一橋大学社会学部を卒業後、様々な職業を経て80年代のバブル期に株の世界に飛び込む。94年、体験を十二分に生かした「流星たちの宴」で衝撃デビュー。エンターテインメント小説会の旗手と絶賛される。著書に「海は涸いていた」「カットグラス」「病葉は流れて」など。


 


主な登場人物: 両作品に共通する人物が多いのでまとめている。

柏木圭一(44歳)
妻 奈緒子
奈緒子の父:
  横矢孝義

カシワギ・コーポレーションの若き社長。
北海道浦河町絵笛で父親の圭吾は牧場を経営していたが、寺島牧場に騙し取られ、はたまた恋人の亜木子に裏切られて圭一は浦河を去り、江成達也、亜木子に対し復讐を誓う。
義父の横矢は圭一を衆議院議員に立候補を画策している。

カシワギグループの面々

・貸しビル業「カシワギ・コーポレーション」 柏木社長
 腹心の右腕 児玉常務。
・コンピュータソフト会社「フューチャーズ」 中城社長
 柏木と最初に起こした会社。全幅の信頼を置かれている。
・人材派遣会社「ハンド・トゥ・ハンド」 浜中社長

江成達也
妻 亜木子
娘 未央(25歳)
亜希子の父親:
   寺島浩一郎

貸しビル業の大手「江成興産」の実質オーナー。 衆議院議員。
「江成興産」が資金繰りに困る状態に陥り・・・。
亜木子と柏木圭一は浦河で好きあっていたが、圭一が姿を消し江成と結婚。
娘の未央は独立心強く動物写真家を目指す。亜木子への思い絶ちがたい柏木圭一は娘の未央に近づく。
亜木子の秘密・・・。

及川広美(46歳)
妻 加代
息子 本橋一馬

24年前の強盗殺人事件(当時の事件を桑田刑事が担当)で15年の懲役刑で服役、13年余りで仮出所。 出所後10年、京急の立会川で殺される。
妻の加代は「バー花」を経営、面倒見の良さで好かれる。
及川事件後3年して店を閉じる。
一馬、及川広美の遺書で隠された真実を知り、「カシワギ・コーポレーション」に採用を直訴する。

「バー花」の従業員

・杉田織江 加代が亡くなった後、「織江」の店を持つ。 出所後の及川時々顔を見せる。
・新谷英子 加代に可愛がられていたが、若くして亡くなる。

桑田則夫警部
相方 清水刑事

23年前の及川を知る桑田は、今回の及川事件の捜査に参加し、相方の若い清水と執念深く真相を追いつめていく。
捜査本部の面々

・水原一捜査一課長 桑田に信頼を寄せている。
・神保管理官
・串田係長


物語の概要:

上巻   
 26年前、北の大地に蒔かれた悲劇の種子。 絶望と孤独を抱えた男は、罪を礎に巨大な財力を築き上げた。そして今、金だけを武器に壮絶な復讐の階段を昇り始める…。 青年実業家の憎悪と恐るべき野心を描くサスペンス。

下巻
 隠し続けた過去に、新たなる悲劇が連鎖する。傷だらけになりながら堕ちていく男と女。 罪深き魂は、いったいどこへ流れ着くのか。 飢えればこそ、愛を信じた者達の奇跡を紡ぐ長篇。



読後感:

 この作品は相当な深みを感じさせる展開で、松本清張の「砂の器」とか、水上勉の「飢餓海峡」といった作品の雰囲気をも漂わせていて、じっくりと読み応えのある小説である。

 上巻を読む間では柏木圭一の会社創設から手を広げていく中で会社を思う人物像が伝わると共に、及川を手に掛けてしまった結果、誰も知らないはずなのに脅迫の手紙に驚愕する一方で、北海道での恨みと共に、亜木子への思いが、未央の姿を見るごとに思いが募ってくる人間性に好感を抱かせる。

 一方で厚みを醸し出しているのが、桑田警部と清水刑事の地道な足取りで点と点を実戦で繋いでいく姿であろう。 しかし推論ばかりでなかなか確証が取れないじれんまに桑田の人間性で一馬や柏木にぶつかることでいくしか手がなくなり・・・。

 推理小説の面での興味だけでなく親子の絆、愛する人をも恨むことになった背景と絵笛の故郷の思い出、会社創業にまつわる絆と内容面での奥深さも手伝って厚みのある作品となっている。

 警察の手詰まり感も最後の桑田警部の、自分が歩んできた道に誇りとプライドがあるからこその行動に果たして“傷ついた葦”が誰であったのかを明らかに出来るのか・・・。



印象に残る場面:
 

(下巻)桑田と妻の和子の会話

(和子)

「昨年の秋、地区の民生委員が集まって、養護施設をまわったことがあるんです。まあ、条件や環境とか、子供の感受性の問題などによっても違うのでしょうけれど、その時にうかがった施設の方のお話ですと、人間というのは絶対に血の繋がりだといわれましたわ。たとえ一度も見たことがなくとも、血の繋がった両親への思慕というのは、人間に残された最後の感情だとか・・・。どんなにうまくいっている養子縁組のケースでも、子供の心から絶対に実の両親への思慕は消えないものだと・・・」



   


余談:
  この余談を書くのが東北関東大震災後10日目にあたってる。思うところは多々あるが、これからの長い時間を要するであろう中に、色々悲しいことやつらいことが起こるであろう。でもみんな乗り越えていって欲しいなあと心から願うばかりである。
背景画はネットの旅ログ北海道より絵笛駅付近のフォトより。


                  



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