白石一文著  『快挙』 





                
2014-03-25


(作品は、白石一文著 『 快挙 』    新潮社による。)

           
 
 

初出 「小説現代」2008年4月、7月、10月号、2009年2月、5月、8月号。
本書 
2007年(平成19年)7月刊行。

白石一文(しらいしかずふみ):(本書より)

 1958年(昭和33)福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文芸春秋勤務を経て、2000年「一瞬の光」でデビュー。2009年「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」で山本周五郎賞を、翌2010年には「ほかならぬ人へ」で直木賞を受賞。他に「不自由な心」「すぐそばの彼方」「僕のなかの壊れていない部分」「私という運命について」「どれくらいの愛情」「この世の全部を敵に回して」「砂の上のあなた」「翼」「幻影の星」「火口のふたり」など著書多数。
◇ 主な登場人物

山裏俊彦
妻 みすみ
(旧姓 中林)

谷中のボロアパートに住む大学中退(外国語専門、5年通う)。月島でみすみを見初め結婚。写真家を目指すも挫折、作家に転向を志し・・・。
みすみ:「小料理須磨」の小さな店を営む。離婚歴ありその結婚生活は2年で破綻。俊彦より2つ年上。

中林泰造
先妻 光恵
(没)
後妻 幸子

みすみの実家。神戸市那須磨区で酒店を営む。
光恵はみすみが小学3年の時に亡くなり、中学に入ってすぐ義母の幸子がやってきた。
幸子は泰造のかっての恋人。

雪江 みすみの従妹。光恵に似ていたところから泰造と関係も。
佐伯 S社出版部の編集者。山裏の才能を引き出す役割を果たしている。
今西 佐伯の後の山裏の後任。
大神順哉 NHK神戸放送局のディレクター。

物語の概要:図書館の紹介より

あの日、月島の路地裏であなたを見つけた。これこそが私の人生の快挙。しかし、それほどの相手と結婚したのに5年が過ぎると、夫婦関係はすっかり変質してしまった…。結婚の有り様を問う傑作夫婦小説。

読後感:

 何故か引き込まれる物語。どういうところに引き込まれてしまうのか、一つは夫婦関係の機微というか、夫婦の間のお互いへの思いやりと共に、相手が悪いからこうなっても仕方がないと思う気持ち。一方でそうなったのは自分の方に責任があるから仕方がないと思う気持ち。また妊娠そして流産に関するお互いの気持ちのこと。そして人生には必ず浮き沈みがあり、悪いことが重なる時もある。そんな何とも言えないどうしようもないことを自分のことのように感じて切なくなってしまう。だからこそ、どうなってしまうのだろうと先が気になってしまう。

 それとは別に、物書きの人生がとても気に掛かってしまってしようがない。読書を始めた頃から、作家への憧れを感じていて、物書きと編集者のことが記されたものへの関心が深く、ついついのめり込んでしまう。
 
 舞台に出てくる須磨、明石大橋は定年後一度旅行で行ったことがあるので身近なこともこの作品に感情移入する元にもなっている。
 さて本の題の“快挙”とは何を指して言っていたことになるのか・・・・。


余談:
 
 作品の中で、須磨寺には山本周五郎の石碑があり、「須磨寺附近」という作品のことがあったので、早速図書館で借りて読んでみた。
 短編で須磨寺の近くに住む友人の青木龍のもとに、傷心の清水清三
(23歳)が身を寄せる。青木は兄が米国赴任中で美貌の兄嫁康子とふたりで暮らしている。そんな中での静かな暮らしは清三を心安らかにするけれど、康子への関心が高まり、思いを寄せるようになる。そして康子も通じるものがあるけれど、最後まで気があるような、ないような女性特有の態度に終始する。そして康子の吐く言葉
「我慢なさい」
「あなた、生きている目的が分かりますか」「生活の目的ではなく、生きている目的よ」
 どういう意味合いがあるのか、この後も思い出して考えてみたい。

       背景画は、作品中「生きていてよかった」と感動する主人公の見た明石海峡大橋。
                    (オープニングは1998(平成10年)年4月5日)

                   須磨寺の規模の立派さも取り入れたかったが、実際に見たこともある明石海峡大橋を採用。

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