白石一文著 『ほかならぬ人へ』







              
2014-04-25



 (作品は、白石一文 『ほかならぬ人へ』  祥伝社による。)

               

 初出 「ほかならぬ人へ」   FeelLove vol4 2008 Summer、FeelLove vol5 2009 Winter
      「かけがえのない人へ」 FeelLove vol7 2009 Summer
               (「月が太陽を照らすには」改題)
 本書 2009年(平成21年)11月刊行。第142回直木賞受賞作品。

 白石一文(しらいしかずふみ):(本書より)

 1958年(昭和33)福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文芸春秋勤務を経て、2000年「一瞬の光」でデビュー。一貫して世界の構造、また男女間の愛について探求し、読者から強い支持を受けている。
 著書に他に「不自由な心」「すぐそばの彼方」「僕のなかの壊れていない部分」「私という運命について」「どれくらいの愛情」「心に龍をちりばめて」「この世の全部を敵に回して」など。2009年に上梓
(じょうし)した「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」で第22回山本周五郎賞受賞。本作が受賞後第一作となる。
 

主な登場人物:
宇津木明生(あきお) 名家である宇津木家の中で、生まれそこなったと思っている。兄たちに比べ飛び抜けて劣る学業成績。普通のサラリーマン(スポーツ用品メーカー‘YAMATO’のスポーツシューズの営業担当)になったのは明生が初めて。

宇津木家
父親 光生
(みつお)
母親 藤子
長兄 宣生
(のりお)
次兄 靖生
(やすお)

山口県出身の宇津木正一郎が一代で巨財をなす実業家に。戦後は宇津木製薬グループを率いる名門の家柄。社長は光生の兄輝生一族が代々引き継ぐ。
父親の光生は次男、大学の教授。元麻布の大邸宅に住む。
母親の藤子は神田にある大病院の創業家の長女。
宣生は8つ年上、東大の医科学研究で基礎医学を。元麻布の邸宅に住む。兄嫁の麻里は美人。
靖生は6つ違い、京都市内にマンションを買って独身暮らし、先端科学研究センターで分子生物工学を。靖生は兄嫁の麻里に恋いこがれている。

柴本なずな 明生が就職して3年目の春に知り合い、結婚。なずなの父親は南浦和で小さな割烹を営むが、女出入りが絶えず。一時は母親と共に別居していたが、今はもとのさやに。

根元真一
元妻 小春

柴本なずなの幼なじみ。昨年の暮れ奥さんに逃げられ、3歳になる息子を男手一つで育てている。
なずなは真一のことが忘れられないでいる。

山内渚 幼少期から明生の事実上の婚約者だつた。藤子(明生の母親)の同級生山内久子の娘。実は渚は次兄の靖生のことが好きと打ち明けられていた。上智大の院生。
東海倫子 去年‘YAMATO’のスポーツシューズ部門のテコ入れのために抜擢された営業課長、33歳。バツイチ。明生の上司。
榎田(えのきだ) 東海倫子にとって命の恩人。

物語の概要:(図書館の紹介記事より)

 愛するべき真の相手はどこにいるのだろう…。「恋愛の本質」を克明に描き、さらなる高みへと昇華した文芸作品。上質な恋愛小説2編を収録した、第22回山本周五郎賞受賞第1作。

読後感:

 まじめな内容の作品にしばし呆然といったところ。恋愛、結婚その意味合い果たして自分はこんなに真剣に物事を考えていたのかなと。
 中でも東海倫子の上司の生き様に引かれる。37歳で肺ガンを再々発して亡くなるまで、経験したこと(発病、赤ん坊を死なせ、離婚、そして別れた夫の死)をしっかりと受けとめ、それでなおかつ宇津木明生の相談役を務め、励まし、冷たく突き放すことも。東海倫子の放つ言葉が胸に突き刺さる。こんな上司がいたら素晴らしいだろうと思ったり。
 
 そのほかにも明生の結婚相手の柴本なずなという女性の生き様もすごい。真一に対する狂うほどの愛着、でもあきらめて明生と一緒に暮らそうとするもやはり忘れられない。
 そんな彼女に対し、彼女を引きつけられなくて悩む明生。その相談相手の東海さんといる時なずなのことを忘れられる。

 宇津木家で当初明生の婚約者とされた山内渚の存在も気にかかる。次兄の靖生に恋していても、なかなか相手に受け入れてもらえない。その靖生は兄嫁の麻里に恋していて遠ざかるために京都の大学に進んでいる。渚にとって明生に対しては何でも相談できる間柄でいる。かくてベストな組み合わせはことごとくちぐはぐな人生模様となり、みんなが苦しんでいる。
 それぞれの人情に同情でき時に胸にじーんときて。

  

余談:

 白石一文という作家の作品が気にかかる。書かれている内容がすごく真面目で誠実で真っ直ぐな感じに好感が持てる。次はデビュー作品「一瞬の光」を取り上げる。そして白石一文が最も影響を受けた作品というカミュの「異邦人」と。

背景画は。無農薬野菜例のラディッシュフォト。

                    

                          

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