白石一文著 『光のない海』



              2018-06-25



(作品は、白石一文著 『光のない海』    集英社による。)

          

 
 初出 「すばる」2014年8月号〜2015年10月号。
   本書 2015年(平成27年)12月刊行。 

 白石一文
(しらいし・かずふみ)(本書より)
 
 1958年福岡県生まれ。出版社勤務を経て、2000年「一瞬の光」でデビュー。09年「この胸に深々と突き刺さる屋を抜け」で山本周五郎賞を、翌10年には「ほかならぬ人へ」で直木賞を受賞。
  他に「僕のなかの壊れていない部分」「私という運命について」「どれくらいの愛情」「砂の上のあなた」「翼」「快挙」「彼が通る不思議なコースを私も」「神秘」「愛なんて嘘」「ここは私たちのいない場所」など著書多数。
      

主な登場人物:

高梨修一郎(50歳)
<私>
妻 淳子
娘 篤子
息子 舜一
父親 修治
母親 (没)

建材会社(建材の納入関係の仕事)「徳本産業」の社長。
16歳の時徳本美千代と出会い、以来30有余年ずっと美千代の庇護と影響下で生きさせられてきた。
・淳子 私、美千代に命じられ結婚、その後離婚。
・篤子 小2の時徳本京介の車にはねられ、脚を複雑骨折。バリ島のシュノーケリングで行方不明に、25歳。
・舜一 妻と離婚後(当時3歳)は淳子と暮らしている。
・修治 2年前失踪。
・母親 私が高校に入った年の春末期ガンが見つかり45歳で亡くなる。

徳本美千代
夫 京介
(一人娘 淳子)

徳本産業初代社長の京介60歳(美千代39歳)の時亡くなり、美千代が2代目の社長に。私を指導、教育し37歳の若さの私に社長を譲る。

筒見花江
母親 月江
父親 彰宏
(あきひろ)
祖母 絹江(81歳)

実演販売師。一条龍鳳斎に弟子入り。花江から購入した水甕を機に私と知り合いに。
・母親の月江は花江が小6の時出奔。
・父親はフリーターの生活力なしの男。アルバイト先の女と姿をくらます。
・火事騒ぎを機に、私は花枝と祖母を社員寮に紹介する。

一条龍鳳斎

ナイフホール・コーポレーション株式会社の社長。本名花岡誠。
花江を彼の使用人のように扱っている。

世羅純也
妻 杏奈

中堅ゼネコンの会社「セラール」の社長。ネット通販を手がけ粉飾決算で危険な状態。増資を徳本産業率先して引き受けていて、どちらもやまと銀行がメインバンク。
・杏奈 実家の三輪家は資産家。

坂崎悦子(47歳) 坂崎工務店の社長。私とは懇意で、セラールの内情を知らせてくれる。
宇崎隆司

私と同じ営業部の優秀な社員だったが、徳本淳子との不倫露見。美千代から追放される。郷里の熊本で2年後”UZAKI”を起業。
私と離婚した淳子と舜一を呼び寄せる。

近藤昭人(あきひと) やまと銀行の常務。長年徳本産業を担当。私とは昵懇の間柄。

堀越夫妻
長女 真奈美
次女 小百合
長男 武史

徳本産業の社員寮の管理人。小百合の悩みを後で知らされ「わたしたちがこうして生きていること自体が罪なのかも知れない」と。
・真奈美 武史の事件後小百合と大津を飛び出し名古屋に当時23歳。
・小百合 武史の事件後精神不安定で自殺癖、当時20歳。
・武史 21歳の時猟奇殺人事件を起こし刑務所に。

三枝幸一 かって徳本産業の総務部長。早期退職して滋賀県大津市に。堀越夫妻が社員寮の管理人に応募してきた、堀越夫妻とは知り合いだった。
戸叶律子(とかの) 高梨篤子と中・高・短大の同級生。
宇津井 篤子の会社の上司(部長職)。篤子は入社早々付き合い始めていた。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 
 建材会社の社長を務める高梨修一郎。50歳を過ぎ、心に浮かぶのは過去の秘密と忘れがたい運命の人…。個人と社会の狭間にある孤独を緻密に描き、成熟した大人に人生の意味を問う長編小説。   

読後感:

 実に沢山の死にまつわる場面が出てきて人生の意味を問う小説という感じである。
 まず主人公の高梨修一郎の家庭における娘の篤子の死。徳本産業の2代目女社長徳本美千代の死により若くして社長に就任することに。その他多数。
 そして2年前に失踪した父親の修治の死。さらには会社の社員寮の管理人である堀越夫妻が突然姿を消して行方不明となった件。おそらく死に場所を探してのことかと推測されるのだが・・。
 一方、それとは別に筒見花江の生い立ちに関わる私との関わり、中堅ゼネコンの「セラール」の粉飾決算にまつわる自社の連鎖倒産危機の悩み、もっと大きいのは先代女社長の徳本美千代との関係とその影響の大きさ、さらには家庭内の妻と息子のこと、小さいときに交通事故で障害を負った篤子の立ち直ったかと思っていたのに、戸叶律子から「バリ島での事故は自殺だったのではないか」との言葉に事の真相が・・。

 堀越夫妻の失踪後の状況は読者にも興味津々という所。10年続けた社長業を後任に譲り、悠々隠居の身になった私が、堀越夫妻発見の報に大津に向かって知った内容に、人生を振り返り自らのその後を暗示するような終わり方であった。
 
余談:

 
著者の特徴なのか、物語の流れが時間経過の流れに沿って流れていくのでなく、前後に飛んでしまってつなげるのに戸惑ってしまう。これだけは閉口してしまった。
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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