塩田武士 『罪の声』



              2021-01-25


(作品は、塩田武士著 『罪の声』      講談社文庫による。)
                  
          

 初出 2016年8月講談社より単行本として刊行。
 本書 2019年(令和元年)5月刊行。
     「週刊文春」ミステリーベスト2016年第1位。第7回山田風太郎賞受賞。第14回本屋大賞第3位。
    
 塩田武士
(しおた・たけし)(本書より)  
 
 1979年兵庫県生まれ。関西学院大学卒業後、神戸新聞社勤務。2010年「盤上のアルファ」で第5回小説現代長編新人賞、11年、将棋ペンクラブ大賞を受賞。同書は’19年NHKでドラマ化された。2012年、神戸新聞社を退社。’16年、「罪の声」で第7回山田風太郎賞を受賞。同書は「週刊文春ミステリーベスト10」第1位、第14回本屋大賞第3位にも選ばれた。’19年、「歪んだ波紋」(講談社)で第14回吉川英治文学新人賞を受賞。ほかの著書に「女神のタクト」「ともにがんばりましょう」「盤上に散る」(以上、講談社文庫)、「崩壊」(光文社文庫)、「雪の香り」(文春文庫)、「拳に聞け!」(双葉文庫)、「騙し絵の牙」(KADAKAWA)など。 

主な登場人物:

曽根俊也(としや)
妻 亜美
娘 詩織(2歳)
父 光雄(没)
母 曽根真由美

京都市北部の住宅街で父親の後を継ぎ、自宅兼店舗の個人経営のテーラー。
父の遺品にカセットテープと黒革のノートが。
・父はくも膜下出血で没。
・母は4日前食事中に血を吐き二週間の入院。
 真由美の生い立ちにも壮絶なものが・・。

堀田信二

京都左京区にアンティーク家具の店を営む。曽根光雄とは幼馴染み。
光雄からは死後、俊也のことを頼まれている。

曽根達雄 曽根光雄の兄、俊也の伯父。新左翼(いわゆる過激派)の活動家だった。20代後半からイギリスに住む。

生島秀樹
娘 望
息子 聡一郎
妻 千代子
(旧姓 井上)

滋賀県警にいたが、82年退職、何らかの不祥事の噂。京都の警備会社に、伯父とは交流継続。大柄で耳がつぶれている。
堀田信二は生島秀樹と同じ柔道教室に通っていた。
望が中学3年の時生島一家、曽根達雄とも1984年行方不明に。

天地幸子 生島望の別のクラスの親友。生島家の失踪の何らかの事情を知る。
阿久津英士(36歳)

全国紙の大日新聞文化部記者。会社に入って13年。
昭和・平成の未解決事件の特集で、取材班に組み入れられる。
・富田 芸能デスク。阿久津の上司。

鳥居 入社してからずっと事件畑、大阪府警担当キャップなどを経て社会部の事件担当デスク。年末企画特集の指揮を執る。
水島 入社してからずっと事件畑、大阪府警担当キャップなどを経て社会部の事件担当デスク。年末企画特集の指揮を執る。
金田哲司 前科三犯の自動車泥棒。CDに残された無線のやり取りの男と目される。関西弁で、背が低くて猫背の男。
青木龍一 暴力団青木組のインテリヤクザ。
「し乃」の女将

大阪堺で小料理屋を営む。金田とできてたの噂。
・板長 「し乃」での犯人達の会話を耳にしていた。

キツネ目の男 哲司の仕事仲間と思われる。
山根冶郎

水島が名古屋で聞き込みの最中見つけた人物だが逃げられる。
中学時代から札付きの悪、当時自動車の窃盗容疑で指名手配中だった。

木村由紀夫 山根の中学時代の担任。水島が見つけた時も、30年後阿久津が訪れたときも嘘をついたが、後日詫び状と無線が記録されたCDを阿久津宛に送ってくる。
ソフィー・モリス イギリスの大学でジャーナリズム学科の教授。曽根達雄と人生の半分以上を曽根と過ごしてきた。
津村克己 青木組の元構成員。
三谷浩二 岡山で“西華楼”という中華料理店を営む店主。

補足:「ギンガ・萬堂事件」とは俊也が幼少の頃、関西を中心に起きた昭和史でも最大級の未解決事件。社長誘拐発端に複数の製菓・食品メーカー(ギンガ、又市食品、萬堂製菓、ホープ食品)を恐喝した大事件。1984318日夜、「ギンガ」の菊池政義社長が二人組の押し入られ誘拐されるからはじまる。犯人が使ったテープの音の一つに男児の声が有り、これは自分(曽根俊也)の声だと思う。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 ある日父の遺品の中からカセットテープとノートを見つけた曽根俊也。テープを再生すると、それは、31年前に発生して未解決のままの「ギン萬事件」で恐喝に使われた録音テープの音声とまったく同じものだった…。

読後感:

 本作品はフィクションですが、モデルにした「グリコ・森永事件」の発生日時、場所、犯人グループの脅迫・挑戦状の内容、その後の事件報道について、極力史実通りに再現しましたと著者が記述している。

 テーラーの曽根俊也が父の親友でアンティーク家具店を営む堀田信二と、大日新聞文化部の新聞記者阿久津英士が「ギン萬事件」を追って真相を両方から探っていく展開が物語を構成している。
 曽根俊也は父の遺品にあるテープから、事件の脅迫音声が自分の声ではないかと驚く。そして堀田信二と共に俊也の伯父曽根達雄が過激派の左翼運動をしていたことを知り、次第に真相に近づいていく。
 一方、文化部記者の阿久津は社会部の鳥居デスクが中心に年末企画「昭和・平成の未解決事件」に向け、阿久津が取り込まれ、当時「ギン萬事件」を追っていた水島情報をもとに真相に迫っていく。

 展開はやがて曽根俊也が当時脅迫に使われた声の主と記者に知られるに到りそうになることを恐れた俊也は、手を引こうとするも、阿久津の追求が迫ってくる。
 世間に知られると、テーラー曽根はもとより、家族のことも世間から非難され、商売も壊れる恐れに俊也は阿久津を知らぬ存ぜぬで追い返すが・・・。

 阿久津から「未解決事件だからこそ、今、そして未来につながる記事が必要なんや」と「生島千代子さんの安否、僕たちに出来ることがあるんじゃないですか」との言葉に俊也も阿久津と共にテープの録音に利用された子供として、もう一方の母子のことを見極める取材に同伴することに。

 ラストで、企画が掲載され、聡一郎と俊也の会見も行われる。そして阿久津と俊也の努力で生島千代子と息子の聡一郎の母子の面会がかなうシーンは、何故か胸にこみ上げてきて涙が出てきた。
 阿久津の言う「子供を犯罪に巻き込めば、その分、社会から希望が奪われる。「ギン萬事件」の罪とは、ある一家の子どもの人生を粉々にしたことだ」が重くのしかかってくる。


余談:

 大日新聞の社会部デスク鳥居の言葉がラストで語られている。
 「俺らの仕事は素因数分解みたいなもんや。・・・・「なぜ」という想いで割続けなあかん、・・・・その素数こそが事件の本質であり、人間が求める真実や」
 著者の訴えたいことだと感じた。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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