塩田武士 『騙し絵の牙』


              2021-08-25


(作品は、塩田武士著 『騙し絵の牙』    KADOKAWAによる。)
                  
          

 
初出 「ダ・ヴィンチ」2016年5月号〜2016年11月号に掲載された連載「騙し絵の牙」を元に、加筆・修正。
 本書 2017年(平成29年)8月刊行。

 塩田武士
(しおた・たけし)(本書より)
 
 1979年兵庫県生まれ。神戸新聞社在職中の2010年「盤上のアルファ」で第5回小説現代長編新人賞を受賞し、デビュー。2012年神戸新聞を退社。2016年「罪の声」で第7回山田風太郎賞を受賞、“「週刊文春」ミステリーベスト10 2016”で国内部門第1位となる。2017年本屋大賞では第3位に。これまでの著作に「女神のタクト」「ともにがんばりましょう」「崩壊」「盤上に散る」「氷の仮面」「拳に聞け!」がある。

主な登場人物:

速水輝也(はやみ・てるや)
妻 早紀子
(さきこ)
一人娘 美紀(小5)

出版大手の薫風社(くんぷう)のカルチャ誌「トリニティ」の3代目編集長、44歳。半歩先の「粋な情報」を幅広い層の大人に届ける月刊誌。3年前はコミック誌の編集長。巨額の利益を上げる漫画家は出版社の稼ぎ頭。
・妻 父親は広告代理店勤の高給取り&土地持ちの家系。
   夫婦仲は家庭内別居状態。
・美紀 速水にとって唯一楽しみの娘。

「トリニティ」の編集部員

・柴崎真二 副編集長
・篠田充
(みつる) 一番内向的な性格。坊ちゃんカット。
・野恵
(めぐみ) 正社員、一番若い、三十路。行動力あり。
・中西清美 柴崎と同期。文芸誌担当だった20代の頃、社のベストセラー独占時期あり、以降パッとせず。
・内橋奈美 恵より1つ年上の「非正規組」のリーダー格。

相沢徳郎 編集局長。7年前、「トリニティ」を企画し創刊、半年だったが初代編集長を務める。専務派。
多田茂雄 専務。理詰めの男。
藤岡裕樹(ひろき) 文芸誌「小説薫風」の広告部長。
西村和喜(かずき) 速水の後輩。営業部の企画担当。本の部数を決める「部決」に従事。
小山内甫(はじめ) 速水の同期。奥さんと離婚。
編集長だったが、懲罰人事で畑違いの営業部署に。
秋村光一

速水の同期。経済誌のネット版「アップターンonline」編集長。
一匹狼で現実主義者。速水をライバル視。

二階堂大作 全盛期は15年前、昨年頃から返り咲き、現在作家協会の会長を務める。
デビュー40周年を迎え、速水との相性は抜群。
霧島哲夫 中堅の男性作家、48歳。律儀な男だが、発言は世間の価値観とズレ感じ始めていると感じる(速水)。
坂上実(さかうえ・みのる) 海外での知名度も高い大物漫画家。
永島咲(さき) 25歳の女優。コメディアンとしての才能あり、野恵が連載取れそうの朗報もたらす。a
久谷ありさ(くたに) 美人作家。野恵は後輩。
高杉裕也 若手作家、未来の売れっ子。プロとして3年を経る。
三島雄二 半年前、コミック誌編集部の速水の部下だったが、担当する坂上ら大物漫画家五人に声がけ、エージェント業を立ち上げ。
清川徹 パチンコメーカーの、コンテンツ事業部の人間。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 大手出版社で雑誌編集長を務める速水。ある夜、上司から廃刊を匂わされたことをきっかけに、速水は組織に翻弄されていく。すると次第に彼の異常なほどの“執念”が浮かび上がってきて…。俳優・大泉洋を「あてがき」にした社会派長編。

読後感:

 主人公速水輝也は紙の出版物が時代の流れで廃れていくことに危機感を覚えている。自ら編集長を務めるカルチャー誌、月刊誌「トリニティ」の黒字化を編集局長の相沢から命令され、赤字が解消されないと廃刊の通告される。もう一方の同期の秋村光一が編集長の経済誌のネット版編集長の「アップターンonline」は先手を走る可能性があり、負けられない。

 速水は作家と編集者が一緒になって作品を作り上げること、特に若い作家にとって編集者として支えることに喜びを感じている。
 世の中の吹聴とは別に、薫風社内部では社長派と相沢のいる専務派による会社方針の争いの他、速水の所属する編集者それぞれの個性のぶつかり合い、仕事のやり方に関するごたごたも織り交ぜて物語は展開する。

 さらには、速水の家庭問題も深刻さを増していく。妻はお嬢様育ちの苦労知らず、家庭を顧みれない速水との間に悩み、万引きで警察沙汰になりかけたり、果ては離婚を切り出す始末。しかし一人娘の美紀を愛している速水は、美紀の言葉に愕然とする。
「トリニティ」の運命は・・・。
 夢敗れた速水の取った行動は、潔く辞表を出して専務は空社長派に鞍替えした相沢に辞表を出すと共に、巻き返し策は・・・。

 ラスト、同期の小山内が調べた内容による速水の生い立ち、巻き返し策の薫風社内の味方は果たして読者にとってどういう受け止め方をされるものか。
 斜陽の一途をたどる出版界で牙を剥いた男が、業界全体にメスを入れる!と、本の題「騙し絵の牙」の意味が伝わってくる。


余談:

 本の表紙に、各章の表題に、大泉洋のフォトが使われ、それも表情豊かにその章、または前の章の感情を表現していて、初めての経験である。
 帯文に“大泉洋が「小説のなか」で動く!”と。 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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