篠田節子著
       『夏の災厄』




              
2011-06-25



 (作品は、篠田節子著『夏の災厄』  文春文庫による。)

                 
 

 初出 1995年(平成年)3月単行本
 本書 1998年6月刊行
 
篠田節子:
 
 1995年東京生まれ。東京学芸大学卒業後、八王子市役所勤務を経て、作家活動に入る。1990年「絹の変容」で小説スバル新人賞を受賞。以降、「神鳥」「聖域」「カノン」「ハルモニア」等、綿密な取材に裏打ちされた力強さと、独特の耽美性ををあわせ持つ作品を次々に発表。1997年には「ゴサインタン−神の座」で山本周五郎賞、続けて「女たちのジハード」で直木賞を受賞。既成ジャンルの枠におさまらない壮大な物語づくりに定評がある。

主な登場人物:

小西誠

昭川市保健センターの事務員。予防接種の仕事に従事。
保健センターは昭川市の保健医療行政の中心的業務を行う。
・所長
・永井係長

堂元房代 保健センターの一階にある夜間救急診療所勤務の看護婦。 5年前亭主の定年退職時20年以上のブランクを経て復職を決意。 昼は予防接種を掛け持つ。
中村和子 夜間救急診療所勤務のベテラン看護婦。
青柳 夜間救急診療所の窓口業務を行う事務員。 同棲相手の経営する窪山町のラブホ「ホテル桃源郷」の受付もちょくちょく。 若い頃海外経験有り。
鵜川医師 旭診療所の医師、45歳。15年前大学病院を追い出され地元の医師からは色つきと見なされている。 窪山脳炎とも言われる新型日本脳炎の対応に熱意。
辰巳秋水 昭川市の唯一の伝染病隔離時の指定病院“富士大学付属病院”の医師。 国立予防衛生研究所にいて日本脳炎のワクチン作りに関与していた疑いあり。
森沢 岡島薬品のプロパー。 予防接種のワクチン入手には欠かせない人物。

補足:
 一般的に日本脳炎は感染経路がはっきりしていて、蚊に刺された豚が感染し、豚の体内で十分増えたウィルスを吸血した蚊が、ヒトを刺すことにより初めて人は感染し、その中のごく一部の者だけが発病する。人から人への感染はない。

物語の概要:(図書館の紹介文より)
 
 昭川市―東京郊外の、どこにでもあるような町に、ミクロの災いは舞い降りた。 熱にうなされ、けいれんを起こしながら倒れていく人々。 後手にまわる行政の対応。 ふいに襲ってくる夏の災厄に、あなたの町は耐えられるか。 戦慄のパニック・ミステリ。


読後感:

 初めての著者の作品なだけにどういうものかと興味津々。 なにか小説というよりドキュメンタリーを読んでいるかの錯覚に陥る。 内容は今では余り心配されない日本脳炎ウィルスが原因とされるが、小西や堂元、鵜川医師は日本脳炎とは異なる奇妙な症状(甘い匂いがすると言ったり、ライトに対し目が焼かれるみたいという)に別のものではないかと疑っている。 
 
 そして発病の時間が短いことも日本脳炎と異なる。 さらに若葉台地区と窪山町周辺に固まっているというのも事が大きく扱われないで陰湿なまま取り残されたままの自体にもなる。 疑問を感じる小西や堂元たち他疑念を抱く人たちによって犠牲者も出しながら何が起きているのか手探りをしていく。 サスペンスもあり、気味の悪さ、それに現実世界でも起きそうな気味の悪いお話である。

 特定の地区にだけ発生している問題から、国は当然のように冷たいし、特定感染症に属する日本脳炎ということで打つ手はなく、腰が引けている。 県としては発生源のコジュケイの営巣地区の一斉消毒を自衛隊の出動で実施し、抑え込んだかに見えたが・・・。

 一担当者である小西や看護婦の堂元房代の奮闘、鵜川医師の執念で次第に核心に近づくが、役所の担当部署の縦割り、役人根性の問題などなんと融通のきかない実体かは現在の課題そのものでもある。
 果たして事件は解決するのだろうか・・・・。 最後まで引き込まれる内容である。 問題人物である辰巳医師の行動、頼りになる堂元看護婦、若い小西のいらだちつつも果敢な行動力、執念深い鵜川医師の活躍が印象的である。

   


余談:

この作品、第115回?の直木賞候補作品であった。選評の中に田辺聖子さんの「人間的魅力を具えた主人公の登場をまって、初めて小説の要が出来、作品が引き締まるのではないか」という言葉があった。すごく最もと思う。その点今回の作品はちょっと当てはまらなかったなあと思う。
「女たちのジハード」という作品が直木賞受賞としてある。是非読んでみたい。

背景画は本作品に出てくる昭川市の保健センターにイメージがあった感じの風景。
 

                               

戻る