真保裕一著 『 追伸 』




              2018-07-25


(作品は、真保裕一著 『 追伸 』    文藝春秋による。)

          

 
 本書 2007年(平成19年)9月刊行。 

 真保裕一
(しんぽ・ゆういち)(本書より)
 
 1961年、東京生まれ。千葉県立国府台高等学校卒業後、アニメーションの制作に携わる。91年、「連鎖」で江戸川乱歩賞受賞。96年、「ホワイトアウト」で吉川英治文学新人賞受賞。97年、「奪取」で日本推理作家協会賞と山本周五郎賞をダブル受賞。2006年、「灰色の北壁」で新田次郎文学賞受賞。著書に「震源」「奇跡の人」「トライアル」「ボーダーライン」「ストロボ」「誘拐の果実」「繋がれた明日」「栄光なき凱旋」「最愛」などがある。  

主な登場人物:

[T]

山上悟(さとる)
妻 奈美子
(旧姓 堀)
先妻 明日香

・悟 二人で10年暮らした後、ギリシャにひとりで海外出張に。奈美子が後を追ってくることを期待して。奈美子とは10歳違いのバツイチ。
・奈美子 駆け出しのライター、34歳。仕事を始めて4年ようやく仕事が舞い込むように。交通事故を起こし入院。その後離婚届を悟に送る。

奈美子の家族
母 須美子
父 恒彰
兄 邦彰

・恒彰 東京の大学を出て新聞記者に、今は末席ながら役員。

奈美子の母親の親族
平瀬誠治(祖父)
春子(祖母)
<旧姓 小島>
兄 啓介(伯父)
妹 須美子(叔母)

・誠治 足が悪かったので兵隊には取られず、神奈川県の職員(役所勤め)軽い脳梗塞で倒れ入院、92歳。右半身麻痺。
    春子亡き後も独身で通す。
・春子 色町に売られて2年、誠治に結婚を申し込まれる。39歳で病死。過去の醜聞(警察の世話になった)があった模様。
・啓介 妻 多佳子、子供たち(健一、哲彦)

祖父平瀬誠治の弟妹

・直道 10年以上前に没。
・康子 若くして没。
・良子 闘病中。

奈美子の父親の親族
(宇都宮に在住)
長兄(伯父)
  (伯母)
三男(末っ子)恒彰

・長兄 末っ子である父(恒彰)の出世をねたんでいる。
明日香 山上悟の元妻。奈美子の車に当て逃げし逮捕される。
[U]

平瀬誠治
子供たち

面会を断る拘置所にいる春子に対して、支援の手紙を書き続ける。
・啓介12歳、須美子10歳。

平瀬春子
(旧姓 小島)

永楽町(色町)に売られてきて2年、客の平瀬誠治と結婚、新橋清殺しの罪で逮捕、拘置所に収監され裁判を待つ。
新橋清 自身の会社の危機に同窓生のよしみで誠治に近づき、春子の過去をネタに騒動を起こし、殺される。犯人は果たして春子?
弁護士

・井上弁護士 最初の弁護士。
・田辺弁護士、女性。女性の方が理解、話しやすいかと誠治が捜して。
・鈴木弁護士 国選弁護人。

河澄健一 池内の私設秘書。
池内周造 県会議員、56歳。
[V]

大塚孝次郎
父親 康正

編集プロダクションの大塚康正社長の息子。大学を出たばかりの大手出版社「灯光社」勤務の見習い期間中の若者。
木戸美樹 大塚孝次郎の恋人。恋人を寝取られたとして奈美子の車に当て逃げした女性。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 女が犯した、人殺しよりも深い罪とは。交通事故に遭った妻と、殺人容疑で逮捕されていた祖母。ふたりの女が夫に隠そうとした真実を解き明かしたのは、夫婦の間で交わされた手紙だった…。長篇ミステリー。   

読後感:

 この作品は手紙のやり取りだけを繰り返し、状況や心情を描写して男と女の生き方、考え方、50年の時代の差を感じさせると共に、事件の裏で見えなかったことをつまびらかにしたものである。
[T][U][V]と章が別れていて娘の堀奈美子の時代と、祖母の小島春子を中心に、その間で母親の須美子が娘に対する態度の意味するものを娘が理解するものとなっている。

[T]では夫婦となってギリシャに海外出張することとなった山上悟が妻の奈美子が車の当て逃げ事件で負傷、入院してしまい、回復して当地に来るを待つ夫に離婚届が送付されてくるところから始まる。
 離婚を決意した理由は夫が子供をほしがったのに、流産したことの他、祖母の醜聞が大きく有り、母が娘の奈美子が祖母に似てきたことに不安を感じる本音を隠そうとする様子に。

[U]では祖母の春子が殺人の容疑で逮捕され拘置所に入れられている状況での祖父と祖母の手紙のやり取りが延々と続く。そこには春子の生い立ちからそれは平瀬誠治という男のxxx

 長編ミステリーと紹介されているが、確かに堀奈美子の祖母である春子(旧姓小島)の新橋清殺人容疑での拘置所収監にまつわり、祖父である中瀬誠治が妻を愛するが故に無実を証明するために調べる様子。春子の生い立ちから自由や開放感を感じたいが故に人殺しよりも罪が重いと恥じる内容が明らかにされていく。さらに奈美子が山上悟の元妻明日香による車の当て逃げ事件の真相もある。

 しかし、それよりも足が不自由で兵役を免れ、同窓生の新橋清にだまされても直整然と相手を理解し、さらには妻の春子が色町出身の身であり、他の男との関係を知らされてもなおそれを受け入れ、子供達にも、自身にも必要と説得する姿は立派すぎてなんとなく近づきがたく、どうも感情移入できない物語である。
 それよりも、祖母の様子を知った母親が、祖母に似た娘の先行きを心配する様子とか、祖母の血が奈緒美自身にも似た状態にあることを認識しておののくそんな状況の方が深く胸に響いた。

余談:

 それにしても、手紙だけで登場する家族の人間関係を理解するには難しかった。上に掲げた登場人物を整理してみてようやく理解できたが、まだ貞子というのが誰なのか不明のままだ。また読み返して捜すのはちょっと勘弁。
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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