真保裕一著
       『連鎖』、 『奇跡の人』





              
2010-11-25





(作品は、真保裕一著『連鎖』講談社、『奇跡の人』 角川書店による。)

           
 

 
「連鎖」
 本書は第37回江戸川乱歩賞応募作品を一部加筆訂正したもの。
  本書 1991年9月刊行

「奇跡の人」
 本書 1997年(平成9年)5月刊行

真保裕一:
 1961年東京生まれ。アニメーションディレクターを経て、91年「連鎖」で第37回江戸川乱歩賞を受賞する。 綿密な取材、堅度の高い文章から生み出される作品群は、幅広い読者の支持を獲得。96年「ホワイトアウト」で第17回吉川英治文学新人賞を、そして97年「奪取」で第10回山本周五郎賞と第50回日本推理作家協会賞を受賞する。


主な登場人物:
「連鎖」
羽川(私) 厚生省、検疫所勤務、輸入食品の検査業務に従事。 女手一つで育ててくれた母親が亡くなった後、竹脇の両親からは一人息子の友人というだけで我が子同然に接してくれた。 竹脇の死の真相を探ろうと・・・。

竹脇
妻 枝里子

週刊中央ジャーナル誌の記者。私の中学時代からの親友。
車ごと海に飛び込む所を見られる。 痴情のもつれで自殺を計る?
妻の枝里子は6年前私の恋人であった。

篠田誠一 輸入食品検査センターの副所長。竹脇と共同で“放射能汚染食品の三角輸入”を追求。 センターに来る前は、大学勤務であったが、そこを追い出される。
高木 検疫所総務課課長、元食品Gメン。 輸入食品検査センター設立に奔走した人物。
倉橋真希江 大日海上火災の保険調査員。私と竹脇の絡む商品の横流し調査に協力する女性。

 「奇跡の人」

相馬克己

交通事故で脳をやられ(当時22歳)、死かよくて植物人間の状態で病院に。
母親は自分の二度目の手術を前に最後になるかも知れない手紙を書き残す。

宮崎海浜病院の人たち

・院長先生
・定村先生
・足立先生
・トモさん

昔の仲間達

・聡子 当時相思相愛の仲、故あって仲間から逃げ出し、今は子供のある幸せな結婚生活をしている。
・幸二 昔仲間のリーダーだった。
・トンコと清 今は結婚し、子供もいる。

物語の概要:(図書館の紹介文より)
 「連鎖」
 乱歩賞史上初の本格ハードボイルド。本年度江戸川乱歩賞受賞作。

 「奇跡の人」
 交通事故。八年間にわたる入院生活。そして、全てを包みこんでくれた母の死。幾多の苦難を乗りこえて、克己はゼロから出発する。空白の時間に埋もれたもう一人の自分を探すために。圧倒的な人間愛を描いた長編小説。


読後感:

「連鎖」

 疑惑の対象が輸入食品にまつわる横流しというきわめて一般の人にはわかりにくい手続きとかものの流れに関してのことだけに興味も注がれた。そして“乙仲”とか“ココム規制”の話まで出てきて、以前仕事で扱ったことのある内容も出てきただけに面白かった。

 また、コンビ?とまでいかなくても、倉橋真希江とのやりとりに、丁度乃南アサの「凍える牙」における音道貴子と滝沢保のコンビのごとく、正義感溢れる真希江の行動も好ましかった。

 主人公の羽川も熱血溢れるタフな人物というわけでもなく、ただ頑丈な身体のおかげで相手の暴行に耐えられたあたり、ほほえましい限り。
 逢坂剛の作品に出てくる主人公とは別のもっと人間味のある人物像が馴染みやすく、作品も好ましいように感じた。

「奇跡の人」

 克己の奇跡的な回復の記録、母親や医師、病院の患者達との交流のさま、交通事故による障害で死ないし植物人間になる可能性から奇跡的に脱し、脳梗塞や心筋梗塞などによる色々な症状の解説などを知るにつけ、大変なことを感じつつ、奇跡的に回復するにつけ、過去の自分を知りたいとい欲望に動かされる克己に興味をいだかされる。
 その過去を取り戻そうと動き出す克己の行動がミステリアスな雰囲気を持ちながら過去が明らかになっていく。

 昔の仲間達の素性が一般の人からは余りよく思われない仲間達との出会い、なんだかよからぬ様な予感。
 でも8年も経ち、成長している仲間も。そんな中、克己と相思相愛の仲だったという女性の存在、でも二人とも仲間から消息を絶ち、音信は不通のまま。

 次第に過去の相馬克己の姿が明らかになるに従い、相馬克己の真の姿が見えてくると、なんだか急に一歩引き下がってしまいたい気持ちになっていくのはどうして?
 少しまどろっこしい展開と、暴力的な性質の相馬克己に親近感が無くなっていくせいか?
 先に読んだ「連鎖」とは全く異なる内容に、もう少しこの作家の作品を読んでみたくなる。


   


余談:
 確かこの著者の言と思ったが、「多くの人に読んでいる間幸福な時間を味わってもらいたいと思って書いている」と。 本当に読書をしながら至福の時を過ごせる作品に何度かであったが、そんな作品に是非沢山であいたいものである。

背景画は本作品の表紙を利用。
 

                               

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