真保裕一著 『発火点』







              
2011-03-25





 (作品は、真保裕一著 『 発火点 』   講談社 による。)

               
 
 
 

 本書 2002年(平成14年)11月刊行
 
 真保裕一:
 1961年東京生まれ。アニメーションディレクターを経て、91年「連鎖」で第37回江戸川乱歩賞を受賞する。 綿密な取材、堅度の高い文章から生み出される作品群は、幅広い読者の支持を獲得。96年「ホワイトアウト」で第17回吉川英治文学新人賞を、そして97年「奪取」で第10回山本周五郎賞と第50回日本推理作家協会賞を受賞する。


主な登場人物:

杉本敦也
(あつや)
父親 正典
母親 三津子
祖父
祖母

12歳の夏の日、あの人(沼田)に父を殺されたことで人生が代わる。世間から好奇心の目で見られることに苦悩し、21歳になっても大人になれない人間としてみられながら、一つ長く務められないし、女の子との間もいろいろと苦悩する。
父 西伊豆のとある港町に。その後20年ほど東京で母と二人小さな喫茶店を経営していたが、失敗、西伊豆に戻ってくる。
父と母の間にすきま風が出来るようになり、家族から離れていく父を、説得を期待して沼田を住まわせるように。

沼田静雄 父の西伊豆時代の旧友。嵐の日猫の浜で横たわっているのを敦也たちが見つける。退院後杉田家に暫くとどまるよう母と俺がいいだし、やがて夏のあの日父親が沼田に殺される。沼田も東京での生活に破れ、傷心して故郷に戻ってくる。
山辺靖代

遊園地のアルバイトで知り合った訳ありの女の子。敦也と付き合うも二人とも自分のことを語らずに住む仲に。でもやがて破局へ。

草壁藍子 アルバイト先の居酒屋の店員で知り合う。歌を作ることに夢を持つ女の子。店長の立木との仲のことで許せず別れる。
大倉茂雄
(渾名 シゲ)
杉本敦也の小学生西伊豆時代の旧友。嵐の日、沼田を一緒に発見する。
武藤 新聞社系の週刊誌記者。杉本敦也のマンションの部屋の入り口で沼田静雄が仮釈放になったことを告げ、被害者の家族の置かれた家族の抱える痛みを世間に伝えていかないと迷惑がる敦也の前にたびたび姿を現す。

物語の概要:(図書館の紹介文より)
 
 12歳のあの日、あの優しいおじさんが俺の人生を一変させた。なぜ沼田のおじさんは父を殺したのか。人生を変えた殺人の、胸に迫る衝撃の真相とは…。罪と罰の深淵を見つめる魂の軌跡を描くサスペンス。


読後感:

 題名から察するとサスペンスとか推理ものと読み出したが、確かに殺人事件を扱っているが、警察側とか、新聞記者とかの犯人捜しではなく、父を殺された被害者である杉田敦也が12歳の夏の日の事件を、21歳になって父の旧友であったあの人(沼田静雄)がどうして殺したのか、どういう父であったのかを知りたくて真実を求めて12歳の当時の状況を調べる。
 
 一方で大人になっても何かにつけて世間が悪いと理屈をつけて続きしない仕事。
 大人になれなくて子供のまま生きている自分。自分が悪いことは分かっているが、素直になれない自分。
 それが「20歳を超えた今だから、あの夏と向き合えたのかもしれない。靖代を傷つけ藍子を許せなかった自分という男のだらしなさに気づくことができたからこそ、今ようやく九年前の事件を受け止められた。12歳の夏から歩き出せずにいた小さな子供のような心が、靖代と藍子という二人の女性の力を借りて、やっと一人で歩き出せるようになったのだ」

 二人の女性の生き方、父と母との結婚と母の実家の祖父母との関係、父の性格、そして似通った素性の幼友達の沼田の生い立ち、あの夏の日の父と沼田のどのようなやりとりで父が殺されることになったのか。
 西伊豆での小さい頃の想い出、あの人と敦也とのやりとり、そんな人生で起こる色々なことが展開し、やがて10年の刑を終えた沼田との再会で父とあの人との間の真実に突き進んでいく。
 太宰治の文庫本をも巻き込んで生き様が生々しく魂に訴えてくる。そんな作品であった。

   


余談:
 
 最後の方で靖代と藍子に詫びるための手紙を、何度もつづりなおし、5年を費やしても終わらない手紙を書き続けている。 “好きな小説を読み返したりしながら文章を学び、少しずつ文字を重ねていくことが、俺のほとんど唯一の趣味になっていた”の表現に、自分も本を読みながら、時に気に入った表現をメモにし、いつかこんな文章が書けたらと馬鹿なことを考えてしまっている。

背景画は本作品の表紙を利用。
 

                               

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