真保裕一著
                『誘拐の果実』





              
2010-12-25





(作品は、真保裕一著『誘拐の果実』  集英社による。)

               
 

 
 本書 2002年(平成 年)11月刊行

真保裕一:
 1961年東京生まれ。アニメーションディレクターを経て、91年「連鎖」で第37回江戸川乱歩賞を受賞する。 綿密な取材、堅度の高い文章から生み出される作品群は、幅広い読者の支持を獲得。96年「ホワイトアウト」で第17回吉川英治文学新人賞を、そして97年「奪取」で第10回山本周五郎賞と第50回日本推理作家協会賞を受賞する。


主な登場人物:

辻倉良彰(49歳)
妻 耀子
息子 伸也
(14歳)
娘 恵美
(17歳)

医療法人宝寿会総合病院副院長。婿養子で、院内での実権は何一つ無い。
妻の耀子は院長夫妻の娘。
息子の伸也は独立心を持たせるために全寮制の中学に行かされている。
娘の恵美は最近親たちに反感を持っている。夜道に襲われたが叫び声で難を逃れるも、数日後誘拐され、入院中のバッカスグループの会長の命を交換条件に辻倉家が脅迫される。

辻倉国政(65歳)
妻 頼子

医療法人宝寿会総合病院院長。孫娘の誘拐事件でどう犯人側に嘘をつくか警察に提案し望むことに。
宝寿会総合病院関係者

・宮鍋久子外科病棟婦長 若手の医師や看護婦から“軍曹”と呼ばれている。
・溝口弥生
(27歳) 新しく病院に移ってきたばかりの看護婦。副院長の世話を進んで買って出ることが多い。1年留学していた学生の一時代、よくない連中と付き合っていた。

永渕孝治(たかはる)
秘書室長
 坂詰史郎

我が国有数の外食産業バッカス・グループの会長で実権を握り続ける財界きっての有名人。政界への未公開株のばらまきで刑事被告人に。病気を理由に有力スポンサーである宝寿会総合病院の特別室に身を潜めている。
警視庁第一特殊班二係

辻倉恵美誘拐事件を担当。
・成瀬係長(警部)
・桑沢遼一警部補 17歳の少女誘拐事件の主担当者。

根本俊雄 (45歳)
妻 文江
祖父 久夫
(73歳)
甥 工藤巧
(19歳)

根本俊雄は、横浜市金沢区の商店街で工藤書店を営む義父(久夫)と大学生の巧の二人暮らしと同居せず、妻の文江は書店の店番を手伝う。
工藤巧は5歳の時、文江の姉である両親とも交通事故死。

神奈川県警本部

工藤巧誘拐事件の担当。
・元山警視
・小橋警部
・加賀見幸夫 警部補。19歳の大学生誘拐事件の主担当者。

物語の概要:(図書館の紹介文より)

 病院長の孫娘が誘拐された。「身代金」は入院患者の命。標的は病院に身を隠していた被告人。挑戦か、陰謀か、悪魔のゲームの幕開けか。そして同時期にもうひとつの誘拐が起きる…。衝撃と興奮の傑作巨編。


読後感:

 二つの事件がほぼ時を同じくして警視庁と神奈川県警館内で起き、いずれも特異な犯人からの要求に苦慮する。
 その内容、展開がユニークで飽きさせない。誘拐事件に関する事件を小説で読むのは随分久しぶりのようで、テレビドラマや映画では画面の緊迫感が身近に感じるが、小説での緊張感や緊迫感を感じさせるのは大変だと思う。

 株にまつわる話にも興味をそそられた。犯人の目的が推測されることの他に、警視庁と神奈川県警の張り合い、意地のみせあいも面白い展開である。
 そして面白いのは、記述されるのが辻倉良彰の側、警視庁の桑沢側、神奈川県警の加賀見側と立場が次々と変わって語られるのも読者にとって感情移入しにくい小説でもある。
 
 また、辻倉家では他人に近い人間と思われている良彰の側からの義父への疑い、娘の恵美が家族に対して胸の内を明かさないことに対するいらだちや、葛藤、真相を次第に見極めていく過程など読みどころも多い。
 事件の真相がはっきりした後の次第もなかなか読ませる。

 

   


余談:
 これで3冊真保裕一の作品を読んだが、なかなかの作家と見た。今最新作の「ブルー・ゴールド」を図書館で予約中であるが、興味が持てそうで楽しみである。

背景画は本作品に出てくる病院にイメージがぴったりの感じがした病院風景。
 

                               

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