志水辰夫著 『約束の地』 




              2011-08-25


 作品は、志水辰夫著 『約束の地』     双葉社による。

          

初出 「小説推理」1999年6月号〜2002年5月号にかけて連載されたものに加筆、訂正を加えたもの。
本書 2004年(平成 年)11月刊行。

志水辰夫:
 1936年高知県生まれ。出版社勤務を経て、1981年「飢えて狼」で作家デビュー。1986年「背いて故郷」で日本推理作家協会賞を、2001年「きのうの空」で柴田錬三郎賞を受賞。他の著書に「裂けて海峡」「あした浮遊の旅」「行きづりの町」「暗夜」「生きいそぎ」「男坂」「道草ばかりしてきた」など多数。

<主な登場人物>
 

渋木祐介(ぼく)

小学生の頃祖父と共に岩村財団の屋敷で暮らす。 祖父の死以降、大学卒業まで施設にはいっていて、その後ロンドンに自費留学。 帰国後岩村財団のうさんくささを知り去り、ロンドンで結婚、シブキ・トレーディング・システムで成功、祖父殺しの犯人に立ち向かう。

渋木要一
(イブラヒム・シェブキ)

渋木祐介の祖父。岩村邸の屋敷に住まわせてもらっている。 岩村との関係は不明。祖父はトルコ人。 祐介とは血がつながっていない。 黒曜石が送られてきた時から祖父の行動に変化。 殺された後にはロシア語の日記(自伝)が残されていた。

岩村寿郎 表向き社団法人の所有物の岩村邸の当主。 今は悠々自適の生活。 岩村記念財団は岩村が一代で築き上げた有名な政治結社。 膨大な資産は、岩村寿郎の死後は国家の名を借りた私益集団にことごとく吸い上げられていく。
高林正毅(まさき) 岩村財団の事務長。
森下盈(みつる) 岩村要一とともに岩村財団の文書係。 個人的には祐介の祖父と一番親しかった。 祖父のロシア語の日記を翻訳する。

三浦重雄
妻 美津子
娘 ひかる

岩村財団では書生。 財団の名を使って詐欺同然のことをやり、首に。
妻の美津子は整った顔立ち、清楚で上品、三浦重雄とは不釣り合いな女性。祐介の憧れの人。
娘のひかるは重雄の子供ではない、大きくなると美津子に似て、祐介に高林が理事長をしている日本教育振興財団の資産運用を依頼してくる。

キャサリン
(本名 アンナ・クランプトン)
(別名 アンヌ・ファガーソン)

フランス国籍を持つマジャール人女性。 渋木祐介と知り合い恋仲になるが姿を消す。 一種の不満分子。 トルコ警察に追われていて、渋木祐介拉致される。
エレノア 渋木祐介の妻。 クロアチア人。 もともと祖国の民主化運動の活動家。
ミハイル・コステビッチ エレノアの弟。 パリでコンピュータプログラマー。
クレイグ・ホーネツガー 貿易商人、武器輸出の売人。
サドゥク・ハムディ トルコの国家情報局(MIT)の人間。 祐介を監禁拉致して取り調べをした人物。

<物語の概要> 図書館の紹介文より
 
 差出人不明の黒く光る小さな石が送られてきた日から、変わってしまった祖父。 ただひとりの肉親だった祖父を眼前で殺された渋木祐介は、祖父と自身の出自、やがてその死の意味を知ることとなる。 渾身の書き下ろし。  


<読後感>
 
 実にわかりにくいストーリー展開。 時系列の点、話が寸断されていて特に外国での話になると人名が色々出てきて判らなくなる。どうもこの著者の特徴のようでたまらない。
歴史の問題もある。 ユーゴスラビア連邦なる国家の崩壊後の話はさっぱり分からないので、少し調べながらの興味は起きるがなかなか。

 物語の最初に祖父に送られてきた黒曜石を見て祖父の驚愕そして、殺されることから祖父の出自、そして自らの生い立ちの秘密が徐々に明らかになってくるが、どうもどういうストーリーの展開が目されているのかさっぱり見えてこなくて、イライラがつのるばかり。
 どうも終盤になって渋木祐介対ホーネッガーの対決を中心にそれにトルコ政府にテロを計画する革命分子を捕らえようとするサドゥクの動きが加わって複雑になっているようだ。

 

   
余談:
 ヨーロッパの歴史をしっかり知らないと背景や状況を的確に捉えられないとつくづく感じる。 まだまだ知りたいことがあり前途洋々である。
 
 背景画は物語の最後の場面に出てくるビザンチン聖跡巡礼団の提唱者であるアルメニア人がアララット山の見えるところで亡くなる。 アララット山は大アララト山5156m(アルメニア人はこの山を『マシス』とも言う。)と小アララト山3914m (同様に『シス』とも言う)で構成されており、大アララト山は頂上が万年雪で被われ、北東斜面には氷河があり、二つの山はサルダルブラク地峡で結ばれている。
 アララト山は聖書に登場するノアの箱船が漂着したところとして有名であり、神聖な山であるがゆえに、人の立ち入りが不可能なところという昔からの言い伝えもあった。

     

                   

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