志水辰夫著 『ラストドリーム』 







             
2011-07-25




 作品は、志水辰夫著 『ラストドリーム』     毎日新聞社による。

            

初出 2002年11月〜2004年3月 毎日新聞「日曜くらぶ」連載
本書 2004年(平成16年)9月刊行。

志水辰夫:
 1936年高知県生まれ。出版社勤務を経て、1981年「飢えて狼」で作家デビュー。1986年「背いて故郷」で日本推理作家協会賞を、2001年「きのうの空」で柴田錬三郎賞を受賞。他の著書に「裂けて海峡」「あした浮遊の旅」「行きづりの町」「暗夜」「生きいそぎ」「男坂」「道草ばかりしてきた」など多数。

<主な登場人物>
 

長渕琢己
(藤井和夫 記憶喪失時の名前)
妻 明子
(旧姓 酒井)

総合食品会社日栄勤務でタイに駐在もしていたが、妻明子の死を機に2年前サラリーマンを辞め、今はフリーター。夕張に向かう列車の中で一時記憶喪失にあい、秋庭寛治と知り合う。
妻の明子は夕張出身。日栄の総務部に勤務していた。臼井も明子を好いていた。

臼井俊之 長渕と同期入社の国立大卒の優秀な男。総務畑を歩くが最後はなにか隙間を埋めるのに重宝がられるだけに。
松原正信 日栄の創業者であり社長。先を読む才に長ける。しかし最後は息子の幸一にゆずるための行動に。
秋庭寛治 北海道ウエンナイ(最寄り駅黒松内)で洞窟から出てくる冷気浴のための会員制ログハウスを主宰している。東京出身の技術者であったが、ギャンブルがきっかけで放浪に。東京には寄りつけないでいる。
宮内幸江 秋田で大館からチョットはいった小坂でスナックを経営している、40才くらい。秋庭寛治と親しい。
宍倉徳夫(36歳) 東京お茶の水で大学病院の医者でカウンセリングが専門。毎月1回秋庭の施設を訪れ瞑想にふける。
小山田 秋庭にログハウスを寄付した東京で不動産会社経営の人物

<物語の概要> 図書館の紹介文より

   悲鳴をあげ、夜行列車のなかで目覚めた男。自分は誰なのか、何処へ行こうとしているのか、それすらも思いだせないまま、旅は始まっていた。切なさに涙がとまらない。志水辰夫、4年ぶりの渾身長編。


<読後感>

 妻明子は長渕の金沢の実家での大勢の家族たちとのいきいきとした生活を夢見ながらも、実生活での長渕とは子供に恵まれることもなく、仕事人間の夫のため、一人での生活が長い。 闘病生活で示される明子の心情ぶり、そして幼い頃の夕張での炭坑生活の断片を見るにつけ最後にホスピスに入ることを決意し、見綺麗にするため力を消耗するのに風呂にひとりで入って身繕いをするシーンでのその時の明子の心情を思うとたまらなく切ない。
 ここにきて時間の入り乱れ記述での戸惑いなど吹っ飛んで、引き込まれてしまった。

 思い返すと、妻の亡くなった後の長渕の変化がその後の秋庭寛治や、宍倉徳夫、そして日栄でのライバル(?)臼井俊夫との対応に表れての行動になっていたのかと初めて理解出来た。
 秋庭寛治の生きざま、宍倉徳夫の生きざまと物語に出てくる生きざまも、なかなかこの世の中のひとこまでありうるなあと。
 それにしてもこの物語の中の妻明子の存在の大きさが感じられ切なさが堪らない。


印象に残る描写

 在宅ホスピスで在宅生活をしていたが、そろそろ体力に限界を感じてホスピスに入った明子を長渕がつきっきりで看病していての話の中:

 わたしたち、来世もまた結婚するの、と明子はいった。もちろんと長瀬は答えた。すると明子はいった。このつぎはべつの人のほうがいいわ。
 何度しゃべっても、また結婚してあげるとはいってくれなかった。

   
余談:
 
 読書の楽しみをまた考えた。予備知識なしで読んでいって感動する作品に出会えた時の喜びが読書の一番の楽しみである。

                  背景画は冷気浴をするための洞窟をイメージして。             

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