読後感:
若い頃ならおそらく手にしなかった本。でも次に読みたい本が手に入っているのに、その前に読んでしまいたくなった作品である。
第二の人生を迎えた主人公の物語、さすがに身に迫る話に感慨深いものがある。
短編集ではあるが、どれも山の中の静けさと寂しさを味わったり、昔の様子を懐古したり、しみじみとした想い出に浸り“生”のことに思い至る時間を持てた。
なかでも「人形の家」と「五十回忌」が印象深い。そしてラストの「赤い記憶」が。
「人形の家」は妻が家を出るときに持ち去った女びなが思いがけないところで見出し、妻の死を知る情景はショック。
作中、日が沈みかける山の中、誰もいないし〜んと静まりかえるところでひとりをいる時の気持ちを想像しただけで言葉に言い表せない寂寥感を感じて身震いしたくなった。
「五十回忌」はこれまた自分が小学生の時兄と共に夏休み田舎に行ったときの、ため池での釣りの想い出が重なり、そこに雷雨があったりしたらまったく同じ状況が起こりうることにショック。
「赤い記憶」では歳を取ると痴呆が入ってくることは避けられない。直接痴呆とは表現されていないが、妻や子供たちが気遣う様が伝わってくる描写で切実。
どの作品も、舞台が色んな事を思い出させるような都会でない片田舎でのことがいっそう懐かしさを感じさせてくれる。
人生の秋を迎えた人それぞれの心情を叙情豊かに描く珠玉の短篇集とはよく言ったもの。
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