島本理生 『夏の裁断』


              2019-11-25


(作品は、島本理生著 『夏の裁断』    文藝春秋による。)
                  
          

 初出 「文學界」2015年6月号。
 本書 2015年(平成27年)8月刊行。

 島本理生
(しまもと・りお)(本書より) 

 1983年生まれ。15歳の時に「ヨル」が「鳩よ!」掌編小説、年間MVPを受賞する。2001年「シルエット」で群像新人文学賞優秀作となりデビュー。03年「リトル・バイ・リトル」が芥川賞候補に。高校生候補として話題になる。同作で野間文芸新人賞を史上最年少受賞。2005年「ナラタージュ」が20万部を超えるベストセラーとなった。15年「Red」で島浦恋愛文学賞受賞。他の著書に「アンダースタンド・メイビー」「匿名者ののためのスピカ」など。

主な登場人物:

萱野千紘
(かやの・ちひろ)

作家。大学は心理学科で臨床心理士になろうと思っていたが、卒業後作家になった。来年30歳。
柴田とは初対面でいきなり抱きつき胸まで触られる。

柴田 芙容社の萱野千紘の担当編集者。
猪俣駿 イラストレーター。千紘とはちゃんと交際もしないまま、気が向いたら会う関係に。

2ヶ月前亡くなった学者であった祖父が残した1万冊の蔵書のデータ化を千紘に手伝ってと。
自炊:本の背を裁断、バラバラにしてスキャナーに取り込む作業。

磯野さん 千紘が子供の頃、ライターの磯野に嫌な目に遭う。
大学教授 萱野千紘の相談相手。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 過去に性的な傷をかかえる小説家・萱野千紘の前にあらわれた編集者・柴田は、悪魔のような男だった。胸苦しいほどの煩悶とそこからの再生を描いた、若手実力派による鬼気迫る傑作心理小説。

読後感:

 悪魔のような男柴田と、紹介記事や帯文に表現されていて、さぞやおどろおどろしい人物かと思っていたが、描写される人物は少し変わった人間には違いないが、悪魔と表現されるのはどうかな?
 芥川賞にノミネートされた作品ということから、心理小説として評価されたようだが、萱野千紘の柴田に対する従属とも言える態度と、柴田の、引き寄せておいて突き放す行為の異常さ、柴田は自身を「破滅願望のようなものが潜在的にあるんです。人を傷つけたいし、自分を破壊したい」と千紘に言う。千紘も柴田もどちらも病んでいる。

 千紘のその要因は子供の頃の異常体験から来るようだ。
 一時千紘は柴田の所属する芙容社に「今後一切、芙容社とはお仕事できません」と決別を宣告するが、その後半年ぶりに会った夜再び1年前と同じような関係に陥っていく千紘の感覚にはついて行けない。
 教授のアドバイス「誰にも自分を明け渡さないこと。選別されたり否定される感覚を抱かせる相手は、あなたにとって対等じゃない。自分にとって心地よいものだけを掴むこと」と。
 


余談:

“文春オンライン”というネット記事に、「夏の裁断」を越えて、今後はエンターテインメント小説に舵を切るというのが出ていた。いわゆる純文学作品からエンターテインメント小説にということらしい。
 そして「夏の裁断」作品については、本を切ることに抵抗がある仕事にしようと思ったと。そして作家と編集者との不思議な関係に関して、化学変化が確実に起こる。それで、境界線が何もかも危うい作家と編集者の関係を書いてみたくなったと。
 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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