島本理生著 『ナラタージュ』


              2019-10-25


(作品は、島本理生著 『ナラタージュ』    角川書店による。)
                  
          

  本書 2005年(平成17年)2月刊行。

 島本理生
(しまもと・りお)(本書より) 
 
 1983年生まれ。立教大学文学部在学。1998年初めて応募した「ヨル」で「鳩よ!」掌編小説コンクール第2期10月号当選、年間MVP賞を受賞。2001年「シルエット」で第44回群像新人文学優秀作を受賞。2003年都立高校在学中に「リトル・!バイ・リトル」が第128回芥川賞候補となり、大きな話題を呼ぶ。同年、第25回野間文芸新人賞を最年少で受賞。2004年、「生まれる森」(「群像」2003年10月号)が第130回芥川賞候補となる。思春期の繊細な感情や心の痛みを鮮やかに表現し、10代・20代の読者からの支持も高い。 

主な登場人物:

工藤泉
<私>
父親
母親

大学2年生、専攻国文学、高校時代演劇部。困っていた時に優しくしてくれた葉山先生のことを思っている。
私は一人日本に残り、アパート暮らし。
・父親 私が大学1年の冬、ドイツに転勤決まる。
・母親 父は生活のことひとりだったら何も出来ないからとついて行くことに。

葉山貴司(たかし) 私が高校3年生の時、世界史の教師として赴任。演劇部の顧問となる。父親の家出で母子家庭だったが、結婚後のトラブルで妻は北海道の実家に。泉に対し好意を持つも、答えられないと宣告。
黒川博文 大学2年生、専攻英米文学。喋るの得意なくせに文章になるといきなり寡黙と志緒。
山田志緒(しお)

大学2年生、専門心理学。黒川と付き合っている。
泉とは高校時代別のクラスだが、演劇部の部活が同じ。
お互い色々の相談相手。

小野玲二 黒川と同じ大学、理系出身専門は生物。スッキリと清潔感のある人。全身から優しさや柔らかい雰囲気が滲み出ている。工藤泉を好きに。実家は長野。
塚本柚子(ゆずこ) 高校3年生(3年A組)、演劇部。しっかりし過ぎでソツがない。負けん気が強い。途中から様子が変に。何かありそう。
新堂慶 高校3年生(3年A組)、演劇部。柚子のこと、友達にはいいけれど、恋愛したいとは思えなかったが、柚子から手紙をもらう。
金田伊織(いおり) 高校3年生(3年D組)、演劇部。志緒のファン。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 お願いだから、私を壊して。帰れないところまで連れていって見捨てて。あなたにはそうする義務がある。壊れるまでに張り詰めた気持ち、20歳の恋。野間文芸新人賞を最年少で受賞した著者による、情熱的な恋愛小説。 

読後感:

 大学2年生の工藤泉、両親は大学1年の冬、転勤のため、ドイツに行くことを決断。泉は日本に残りアパート住まいの一人暮らし。高校時代演劇部に所属していて、慕っていた葉山先生からの応援依頼で黒川と山田志緒の三人が再び出会う。黒川は大学の見知らぬ人物小野玲二を連れてきて、その彼が泉に好意を持つ。黒川と志緒は付き合っていて、泉と小野のカップルをいい感じとみていた。

 最初は泉も小野のことを優しい人、良い人だと思っているも、それ以上感情が動かないと志緒に吐露する。
 それには高校時代の一番つらかったときに葉山先生に助けてもらったことが忘れられなく、泉は執着していた。
 その死にたくなったほどのことの真相は女友達が自分を排除しようとしていることから来るのかと思われるが、はてなという感じが最後まで残った。

 黒川と志緒の関係も、黒川がアメリカに留学を決めていることから、志緒とのことを泉は気にかかっているが、志緒のすごさと対比して、泉の葉山先生への思いはそれとは別に、別れようと気持ち的には納得しているのに、つい会って顔を見ると崩れてしまう。忘れて新しく小野との交際で忘れようとしているも、小野の変質的とも思える行動に、志緒からは「別れた方がいいんじゃない」と言われてしまう。
 
 これはまさに情熱的な恋愛小説である。
 小説の途中で葉山先生の生い立ち、過去の失敗と償いの気持ちが吐露されて、泉に対して「君の気持ちに答えられない」と拒否する潔さがあったかに見えたが、志緒が泉に葉山先生のことについて「わりに口の上手い人」と評価していて、なるほどと思わせるシーンも。

 あっちに揺れ、こっちに揺れる若い女性の気持ちの表現が的確に描写されているのか、それともなんて往生際の悪い乙女心の持ち主と冷めた見方に陥るのか。読者も揺れる心地になってしまった。
 もうひとつ、塚本柚子の様子に途中から挙動不審な行動が見られるようになり、新堂の行為も何か知っていそう。そして突如不幸な知らせが・・・。そこども葉山先生の救えなかった悩みが加わってくる。
 とにかく若い世代の大人になりきらない揺れる心情を、鮮やかに表現しているなあと感じられる。
  

余談:

 表題の『ナラタージュ』と言う表現は、いつ出てくるのかと思って読んでいたが、出てこなかった。調べてみると『ナラタージュ』とは映画などで、語りや回想で過去を再現する手法を指す用語とあった。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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