島本理生著 『イノセント』



              2019-07-25

(作品は、島本理生著 『イノセント』    集英社による。)
                  
          

 初出 「小説スバル」2014年10月号〜2015年6月号、8月号〜12月号。
    単行本化にあたり、加筆修正。

  本書 2016年(平成28年)4月刊行。

 島本理生
(しまもと・りお)
(本書より) 
 
 1983年生まれ。2001年「シルエット」で第44回群像新人文学優秀作を受賞。2003年「リトル・バイ・リトル」で第25回野間文芸新人賞を受賞。2015年「Red」で第21回島清恋愛文学賞を受賞。「ナラタージュ」「アンダスタンド・メイビー」「よだかの片想い」「匿名者のためのスピカ」「夏の裁断」等著書多数。
(余分:第2作「リトル・バイ・リトル」は芥川賞候補にのぼる。
   「ファーストラブ」直木賞作品。
 

主な登場人物:

徳永比紗也
息子 紡
(つむぐ)
夫 芳紀
(よしき)(没)

仙台出身で東京に息子と出てきてキャバレーで働いていたことも。今は美容院で働き、時に紡を店長の両親に預かってもらっている。育ての父からは顔だけの女と。
比沙也の母親は中学生の時に出て行った。父親に暴力を振るわれ、心に影を秘めている。
夫が都合で行けなくなり、身重で函館に旅行中に真田と知り合う。
・紡は人見知りするタイプの保育園児。

比沙也は(水商売の)母親と地元議員の間に生まれた子。お抱え運転手の男が母親に一目惚れて入籍。根暗で嫉妬深いくせに、身の丈に合わない奥さんをもらうから、疑心暗鬼になって責め、逃げられておかしく。比沙也に金をせびる父親。
荒井 比沙也が勤める家族経営の美容院の店長。40歳近い独身。あくまでも優しい。
真田幸弘(ゆきひろ)

イベントをプランする小さな会社の社長、独身。色気と雰囲気を持つ男。函館で知り合った比沙也のことが好き。

猪瀬桐子
<キリコ>

真田と馴染みの彼女、38歳。真田とは恋愛感情はないが、何かと相談に乗ったり、忠告する仲。真田は優しすぎると評す。
博子(ひろこ) 新築のマンションを購入した真田の部屋に転がり込み同棲するも半年以上前に出て行った元恋人。
如月歓(きさらぎ かん)

4年前30歳で神父に。14歳で神学校の寮に入ると告げ、父親からはそこでなら自分が生きる意味を見つけられるだろうと賛成される。中学時代新入生の女子の名誉を汚したことがあり、自分自身のことが怖いと。それまでは頭の中の声が一番の友達だった。
病院での指切断の危機を比沙也に助けられ、知り合う。

修道院の人たち

ストイックなイメージのカソリック教会。
・石原神父 還暦を過ぎても正義感に溢れ、頑固なおやじ。
・二ノ宮シスター さりげなく気にかけてくれる。

(ひじり) 歓の神学校時代の同級生。神の存在について語り合った仲。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 幼い息子とふたりきりで生きる女性・比紗也は、対照的な性質のふたりの男と出会う。複雑な過去を抱えた比紗也を、ふたりはそれぞれの想いから救おうとするのだが…。鮮烈な印象を残す傑作長編小説。             

読後感:

 徳永比沙也を巡り対照的な二人、真田幸弘と如月歓が、お互い彼女を護りたいと思う気持ちが交錯し、薄幸とも思える比沙也も孤独に悩み、男にすがり、反発し生きている。
 中でもキリコの、一見真田の彼女かとも思えるも、真田との付き合い方が何とも素敵で、頼もしく、適切な指摘に真田が感謝している描写がいい。

 真田の比沙也に対しての評「真田君はねえ、優しすぎるのよ。自分に関係ないと思えば、人間はどこまでも無責任に優しくなれるの。真田君はね、究極負う気がない。・・・じゃないね。負うっていうことがどういうことか本質的に分かってないんだと思う。・・・友達としては気楽だけど。私と違って、あの子は重いわよ。」と。

 かたや如月歓は、過去の罪におびえ神の存在を信じていなかった自分が、聖との再会で悟る。他人を救うために。そして比沙也を修道院に誘い、しばしの安堵を味あわせる。比沙也から仙台に一緒に行ってと誘われるも、真田にその役を任せ、自らはまた自分以外の誰かを愛している者のために尽くそうと。

 比沙也が恐れる男(比沙也の育ての親)に対峙する如月歓、真田弘幸、店長の荒井が取った結末は・・・。比沙也に安堵の日が訪れるのか?
 

余談:

 東京の新幹線のホームで真田を振り払い、心身共に疲れ切った比沙也が、一人仙台に帰ってきて思い出す。あの身重の時東北大震災に遭遇し、夫の芳紀が海に流されたその海辺に歩いて向かう。紡を産んだとき住み慣れた仙台で家族三人そろって暮らしていたら、今頃どんなに安心して幸せだったか。そんな時東京に居る真田から携帯に「きみ、今はホテルじゃないのか?」と。「どうやって帰る気なんだ」に「帰らなくて、いい。もう、いいから」と電話を切った。
 そんなシーンでは彼女にかける言葉はもう弱みを見せるしかないだろう。
 著者は読者の心をわしづかみ。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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