物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
日本文学科の大学院生の春は創作による修士論文と『銀河鉄道の夜』を扱った副論文の準備をしていた。未だ書かれずにいる小説と未完に終わった賢治の作品への思い。そこには幼いころ失踪した父の存在が影を落としていた…。「私」をめぐる旅の物語。
読後感:
この手の作品は苦手である。読後感を書くのに四苦八苦である。
主人公の原春(はら・はる)は大学院の修士課程2年生、日本文学研究科に属し、卒業のための修士論文(小説で提出することも許されている)と副論文に追われている。
副論文では宮沢賢治を取り上げ、「銀河鉄道の夜」について考察しているが、改稿が何回も繰り返されていて、宮沢賢治の改稿の意味に苦慮している。また、小説でははるが小学生の時、父親が失踪した絡みのことテーマに小説の書き方に悩んでいる。
そんな春は、社会人の恋人亜紀君との付き合い上で、結婚を申し込まれているが、「私、亜紀君といると、時々、息苦しい」と傷つけるようなことを言ってみたり、亜紀君はといえば、春のことを「春はちょっと危うい雰囲気があると思ってた。落ち着いて見えるのに、急につかみ所がなくなる感じがして、そう、それこそ、春のお父さんみたいに突然消えてしまいそうなところがある子だなって」と。そんなやり取りをしながらも、離れないでいる。
また、春は同期の篠田くんや売野さんとの結婚論議や、バイト先の父親の年齢である作家の吉沢に相談したりし、亜紀君との付き合いの差を感じている。
春の不安定さは、父親が失踪した時、父と父方の親族の宗教観が異なることに関係していて、父が妹の顔を酷く殴った経緯を、小さかった春が眺めていて、その父方の血筋が自身にも流れているようなことを不安がったりするのかもと考えたりする。
母は父と離婚し(失踪には3年経つ必要があり)、今は入籍することなく、恋人と軽井沢で暮らしている。母は父方との関係を遠ざけている。
春が亜紀君との関係を互いに見つめ直し、修復できるか、物語は互いに自分の弱さを確認しながら進んでいく。作家の吉沢の言葉が春の疑問を、自分の娘や妻とのやり取りと絡み合わせ指摘し、方向を照らす。
しかしながら、島本理生の作品は難解な読み物のひとつである。
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