島本理生 『星のように離れて
    雨のように散った 』



              2021-11-25


(作品は、島本理生著 『星のように離れて 雨のように散った』   文藝春秋による。)
                  
          

 
初出 別冊文藝春秋 2020年9月号〜2021年7月号
 
本書 2021年(令和3年)7月刊行。

 島本理生
(しまもと・りお)(本書より)

 1983年東京都生まれ。2001年「シルエット」で第44回群像新人文学賞優秀作を受賞。03年「リトル・バイ・リトル」で第25回野間文芸新人賞を受賞。15年「Red」で第21回島清恋愛文学賞を受賞。18年「ファーストラヴ」で第159回直木三十五賞受賞。「ナラタージュ」「アンダスタンド・メイビー」「七緒のために」「よだかの片想い」「あなたの愛人の名前は」「夜 は お し ま い」「2020年の恋人たち」など著書多数。

主な登場人物:

原春(はら・はる) H大の大学院で日本文学研究科の学生。修士論文の作成に励んでいる。
売野(うりの)

他大学を卒業して、大学院からうちに来た院生。

篠田 来年の春出版社に入社が決まっている、春の同期生。
人付き合いの上手な彼。
亜紀君 1年前に出会った春の恋人。社会人。春が卒業したら一緒に暮らしたいと。三男で和光市に住んでいる。

原武春
奥さん 亮子
(りょうこ)

春の父親。春が幼い頃失踪して行方不明。
・奥さん 夫が失踪後離婚して、軽井沢で恋人と暮らしている。

茉里(まり) 春にとって父方の叔母さん(父の妹)。
吉沢樹(いつき)

四階建ての高級マンションを仕事場にしているミステリー作家。
春の父親と同じくらいの年齢。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 日本文学科の大学院生の春は創作による修士論文と『銀河鉄道の夜』を扱った副論文の準備をしていた。未だ書かれずにいる小説と未完に終わった賢治の作品への思い。そこには幼いころ失踪した父の存在が影を落としていた…。「私」をめぐる旅の物語。

読後感:

 この手の作品は苦手である。読後感を書くのに四苦八苦である。
 主人公の原春(はら・はる)は大学院の修士課程2年生、日本文学研究科に属し、卒業のための修士論文(小説で提出することも許されている)と副論文に追われている。
 副論文では宮沢賢治を取り上げ、「銀河鉄道の夜」について考察しているが、改稿が何回も繰り返されていて、宮沢賢治の改稿の意味に苦慮している。また、小説でははるが小学生の時、父親が失踪した絡みのことテーマに小説の書き方に悩んでいる。

 そんな春は、社会人の恋人亜紀君との付き合い上で、結婚を申し込まれているが、「私、亜紀君といると、時々、息苦しい」と傷つけるようなことを言ってみたり、亜紀君はといえば、春のことを「春はちょっと危うい雰囲気があると思ってた。落ち着いて見えるのに、急につかみ所がなくなる感じがして、そう、それこそ、春のお父さんみたいに突然消えてしまいそうなところがある子だなって」と。そんなやり取りをしながらも、離れないでいる。

 また、春は同期の篠田くんや売野さんとの結婚論議や、バイト先の父親の年齢である作家の吉沢に相談したりし、亜紀君との付き合いの差を感じている。
 春の不安定さは、父親が失踪した時、父と父方の親族の宗教観が異なることに関係していて、父が妹の顔を酷く殴った経緯を、小さかった春が眺めていて、その父方の血筋が自身にも流れているようなことを不安がったりするのかもと考えたりする。

 母は父と離婚し(失踪には3年経つ必要があり)、今は入籍することなく、恋人と軽井沢で暮らしている。母は父方との関係を遠ざけている。
 春が亜紀君との関係を互いに見つめ直し、修復できるか、物語は互いに自分の弱さを確認しながら進んでいく。作家の吉沢の言葉が春の疑問を、自分の娘や妻とのやり取りと絡み合わせ指摘し、方向を照らす。
 しかしながら、島本理生の作品は難解な読み物のひとつである。


余談:

 丁度この作品を図書館で借りたのが日曜日。翌日から図書館の休館日を含め新型コロナ感染逼迫で1週間休館となった。原稿書きに苦慮したこともあり、二度読みすることで何とか整理すことが出来たかな。これも小説の時代と同じで、新型コロナのなせる成果かも。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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