島本理生 『ファースト・ラブ 』



              2021-03-25


(作品は、島本理生著 『ファースト・ラブ』    文藝春秋による。)
                  
          

 初出  別冊文藝春秋2016年7月号〜2018年1月号。
 本書 2018年(平成30年)5月刊行。159回直木賞受賞作品。

 島本理生
(しまもと・りお)(本書より)  

 1983年東京都生まれ。2001年「シルエット」で群像新人文学賞優秀作を受賞。03年「リトル・バイ・リトル」で野間文芸新人賞、15年「Red」で島清恋愛文学賞を受賞。著書に「ナラタージュ」「真綿荘の住人たち」「アンダスタンド・メイビー」「七緒のために」「夏の裁断」「イノセント」「わたしたちは銀のフォークと薬を手にして」など多数。  

主な登場人物:

真壁由紀
夫 我聞
(がもん)
息子 正親
(まさちか)

クリニックの臨床心理士。聖山環菜(ひじりやま・かんな)の半生を臨床心理士の視点からまとめる話が進行中。
・我聞 結婚式場のカメラマン。由紀とは14年前に出会う。
・正親 小学4年生。

庵野迦葉(かしょう)

弁護士。我聞の弟。大学時代(法学部)、由紀(心理学科)と同期生。国選弁護人として聖山環菜の殺人事件の裁判が進行中。
8歳の時両親は離婚、真壁家に預けられる。

聖山環菜(ひじりやま・かんな)22歳
父親 那雄人
母親 昭菜

アナウンサー志望の女子大生(環菜)がキー局の二次面接直後、父親を刺殺して、夕方の多摩川沿いを血まみれで歩いていた。
・父親は芸術家(絵描き)、しょっちゅう海外に。環菜は父親を嫌っていた。
・母親は裁判で検察側の証人に。

臼井香子(きょうこ) 小学校からの友達、環菜の親友。燃える花のような美女。
賀川洋一(かがわ) 環菜の大学のOB。環菜の元恋人。環菜は虚言癖があると。
辻憲太 新文化社でノンフィクションの編集者。
柳澤

美術学校の先生。聖山那雄人も時々教えに通っていた。環菜は物を届けに時々見かけた。
環菜、この学校のトイレに父親を呼び出し刺した。

北野 弁護士事務所の先生。庵野迦葉の先生。
小山ゆかり 庵野迦葉先生の事務所で事務をしていた。迦葉が気にかけている女性。
五十嵐 父親の那雄人のデッサン会で環菜がモデルとなったとき参加していた美大生。
小泉裕二 環菜に初めて出来た恋人。環菜が父親を刺し多摩川沿いを彷徨っていたときに介抱し自分の部屋に導いたことから。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 臨床心理士の真壁由紀は、父親を刺殺した女子大生・聖山環菜を題材としたノンフィクションの執筆を依頼される。環菜やその周辺の人々と面会を重ねていくうちに、環菜の過去が浮かびあがり…。「家族」という名の迷宮を描く長編小説。

読後感:

 女子大生の聖山環菜が父親を刺殺した事件に関し、臨床心理士である真壁由紀が新文化社の辻から環菜の本を書くことの依頼を受ける。
 裁判が一方で進行する中、国選弁護人である庵野迦葉(かしょう)とは大学時代に知り合った仲ではあるが、その関係には秘密めいたものがある。さらに迦葉は由紀が結婚した我聞とは兄弟の関係である。ただ、迦葉は幼少で両親が離婚、真壁家に引き取られた事情がある。

 聖山環菜の家庭の複雑さ、由紀、迦葉それぞれの秘められた秘密を持ちつつ、展開は章とか節で区分されることなくスペースを少し空けるだけで淡々と綴られていく。
 ミステリアスでもあり、家庭の、親の感情、考え方が子どもにどう影響するか等の問題を含みつつラストに向かって突き進んでいく。

 裁判が始まり検察側、弁護側の尋問を通し、環菜の家庭の事情が明らかになるにつれ、それまで弱く、発言もフラフラとして弱そうに思えた環菜のしっかりとした態度、発言。
 そして母親の昭菜の過去が垣間見え、そしてそして迦葉と由紀の秘密も我聞の言葉で解消したことも。
 なんにしてもラストでは、後に引きずることなくすっきりと読書を終えられて良かった。


余談:

 本作品は第159回直木賞受賞作品であるので、その時の選評を覗いてみたら、意外に不評(?)が多いように感じた。
 本作品を読んでみて感じたのには、そんなところを共感したところもある。
 島本理生作品は「ナラタージュ」「イノセント」「夏の裁断」と女性の心理描写が鋭かったと思っていたが、本作品もその様だ。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
戻る