重松 清著 『定年ゴジラ』

 

              2009-01-25




 本作品は重松清著 「定年ゴジラ」      講談社 による。

                 
  

 1997年から1998年にかけて「小説現代」に各章ごとにかけて掲載。
 本書 1998年(平成10年)3月刊行。

 重松清:

 1963年岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。出版社勤務を経て執筆活動にはいる。

  

主な登場人物:

山崎隆幸 東京の銀行を定年退職、くぬぎ台に移ってきて25年。定年退職組の5人と知り合いになる。
  奥さん 結婚して32年。
   長女 千穂 4年前に結婚、夫伸弘との間に貴弘(小学)一子いる。最近マンションを購入。
   次女 万里 一子のいる妻と別居し、離婚話を進めている須藤康彦36歳の男とつきあっている。
古葉(和正)さん 定年退職して7年目、町内会長。二世帯住宅のことで危機。
藤田(幸三)さん 武蔵電鉄沿線開発課を定年退職。くぬぎ台ニュータウン開発の元締め。定年退職してくぬぎ台に家を構えるが。
野村さん サラリーマンの晩年10年は西日本各地を先頭切って突撃。しかし定年で家にはいるといる場所を失っていた。ぬぎ台に家を構えるが。
江藤さん 定年退職して5年目。5人で初めてあって10日後、心筋梗塞でなくなる。


読後感
 

 物語はサラリーマンで定年を迎え、かって25年前に住居を構えたくぬぎ台ニュータウンで新しい人生を踏み出した山崎さんが、同じように定年後ここに住む4人の友達を作りながら、いろいろな試練、経験をしながら次第に夫婦、家族のことを考えさせる内容になっている。

 いかにも自分と同じような境遇に身がつまされそうになる。そうしてちょっぴり勇気を得たり、もし自分がこういう立場になったらこんな風に対処しようかとか、こんな風に向かっていくのもよいかもと思わせるところがある。

 特に、二世帯住宅の問題(嫁、姑問題、性格の問題含め)、娘の不倫とは言えないかもしれない結婚問題、ふるさととは、には大いに関心を持った。読書とはいろいろな課題に触れられたり、刺激が得られ、今までぼんやりとやり過ごしていたこと、埋もれてしまっていたことも呼び起こされ、考えるチャンスとなるものである。


印象に残る場面:

次男である山崎さんは、新潟の奥の盆地から東京に出てきたが、ふるさとに戻るつもりはない。しかし中学の同級生とのことで奥さんとふるさとについての会話。 

「なあ、千穂や万里のふるさとって、どこなんだろうな」
「ここなんじゃない?」
「そうだよな、ここだよな・・・」
 すべてを許してくれる人がいるんだと信じていられる場所がふるさとならば、この街の、この家を、娘たちのふるさとにしてやりたい。信じさせてやりたい。どんなに困り果ててしまっても最後の最後に帰っていける場所が、ここにあるのだと。

万里の結婚話について、山崎さん相手にあっていえなかったが、二度目の設定がキャンセルとなり電話で伝えた言葉。

「ひとつだけ約束してください」
―――・・・はい。
「ゆっくり、時間をかけて話し合ってください。私は待ちます。万里にも待たせます。だから・・・あなたがつくった家庭です、あなたの家庭です、最後まで責任を持って奥さんと話し合ってください。お願いします」


  

余談:

 定年はサラリーマンにとって定めであり、この後の人生での転機、楽しみでもある。どのように迎えるか、誰にとっても大きな節目である。幸多かれと願いたくなる。
 

背景画は、ニュータウンをイメージして。

                    

                          

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