読後感:
最初オムニバスの小説かと思った。それが“その日のまえに”から“その日のあとで”にかけては継続した話で、しかも登場人物に先のフェイズの人物が登場してくるところで、関連づけがなされていて、時の流れを感じる工夫が為されていることに味がある。
しかも各フェイズの話の内容が実に心に染みてくるもので、重松清という作家の思いがぐっと伝わってくる作品であった。何冊かの作品を読んでいるが、好きな作家の一人に加えたいと思った。
どのフェイスもいい作品と思うが、やはりその日を迎えるときをじっくりと描いているフェイズが印象に強く残る。特に40歳で妻を亡くすことになる話には、自分はすでに60歳後半に入っていて、もう十分いつ死んでもこのような後悔はしないだろうと思うが、娘や息子がこのような状態になったら、親としてはどのような感情になるかと考えてしまう。
いずれにしても、死は避けられないものだから、それまでの間にじっくりとその日を迎えても落ち着いて心静かに迎えられるように準備をしたいと思う。
ラシオの深夜便で、末期ガン患者を数限りなく見ている院長が、くしくも「ガンになって幸せでしたね。ご家族や大切な人とゆっくりとお別れが出来るのですから」と患者さんに言っているんですというような主旨の言葉が、作中の文章と重なって思い出された。
|