重松清著 『流星ワゴン』

 

              2008-10-25


(作品は、重松清著 『流星ワゴン』  講談社による。)

               
  
 

 重松清:

 1963年岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。出版社勤務を経て執筆活動にはいる。

  

主な登場人物:


永田一雄 38歳、東京の小さな部品メーカーの営業課長。リストラになったことも言えず、妻は不倫、息子は暴力をふるう状態で家庭は壊れ、死にたいと思っている。
永田広樹 息子13歳、私立の中学受験に頑張っているが次第に成績も下がり、登校拒否、家庭内暴力と荒れてくる。
永田美代子 妻38歳。家庭はうまくいっていたが、性格的に男好きで家を空けるようになり、離婚を言い出すことに。

永田忠雄

(チューさん)

父親、事業を起こして成功、長男の一雄に後を継がせたかったが、ことごとく意にそぐわず、いがみ合っている。63歳で末期癌に冒され入院、もう長くない状態。

チューさんとは、一雄と同い年の頃の姿で橋本さんのワゴンに乗り込んできた人物。
橋本義明

5年前、免許を取ったばかり、家族でドライブに出かけて交通事故を起こし、妻は一命を取りとめたが、息子を道ズレに死亡。

成仏しない状態で、ワゴンを運転しこの世をさまよい、現世で死にたいと思っている人を乗せて、未来のことを聞かせている。
橋本健太 息子8歳で死亡。なかなか死を納得していない。母親に会いたがっているが、現実の世界では・・・。

小説の概要: 

 5年前に交通事故を起こし、妻は命をとりとめたが、8歳の子供と父親が死んだ。その橋本さん親子が成仏しないでワゴンに載り、死にたいと思っている僕の前に現れ奇妙なドライブを体験する。行き先は転機になった大切な場所。

 そのドライブにもう一人の人間が同乗してくる。僕の父親で、いま末期癌で亡くなりつつある中で、自分と同じ年齢で。

 僕の家庭が壊れる1年前に、未来を知った状態で1年後の未来を変化させようともがく。果たして現実を変えることが出来るのか?そして8歳の息子は自分の死を納得できるのか。


読後感
  

 奇妙な世界ではあるが、そんな架空の話の中で、永田家と橋本親子の二組の家族の家庭内の問題――妻の不倫、子供の受験、いじめ、暴力に絡む親子の絆、父親と息子の想い、死の恐怖――といった今日の課題を浮き彫りにして解きほぐしていく。著者の暖かいヒューマニズムが感じられる作品となっている。

 転機となった大切な場所に橋本さんが連れて行き、考え反省することで解決の芽はたがいの交差による行動、会話で見えてくるが、大切な場所は当時はそれが大切な場所と認められずに見過ごしてきたところ。それぞれが納得して受け入れ、現実の世界に帰っていくことになり、昔と違う前向きな心構えで現実に立ち向かうことになる。読み終わった後、なにか爽やかな感動が残る作品である。



印象に残る場面:

◇ 僕が親父に癌のことを告知しないでいるが、教えた方が良かった?とチュウーさんに問いかけたら

「子どもは親に言うてもええし、言わんでもええんよ、子どもの楽な方にすれば、親はのう、それがいちばんなんよ」「・・・そうなのかなあ」

「ほいでも、逆なら、言うたらいけん。子どもの先のことを、親が言うてしもうたらいけん。子どもが先のことを信じとるときは、親は黙って見といてやるしかなかろう?」・・・「知っとるほうはつらいけどのう、辛抱せんといけん、親なんじゃけえ」


◇ 命を取り留めた健太の母親に会いに行ったが、再婚し住居も変わり、よちよち歩きの赤ちゃんと遊んでいる姿を見て、健太は全力疾走でその場を離れ、誰もいない砂場で泣きだしたことを橋本さんが僕に説明。

(僕は)泣いてくれてよかった、と思う。泣けばいい。悲しいんだと伝えてくれればいい。親にとってなによりもつらいのは、子どもが悲しんでいることではなく、子どもが悲しみを自分一人の小さな胸に抱え込んでいることなのだと、僕はやり直しの現実で知った。


  

余談:

 重松作品の魅力は、なんといっても家庭というものへの暖かい思いやり、人の気持ちの内側に語りかけてくるまことの心情が心を揺さぶるところかな。

 

背景画は、流星をイメージして。

                    

                          

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