小説の概要:
5年前に交通事故を起こし、妻は命をとりとめたが、8歳の子供と父親が死んだ。その橋本さん親子が成仏しないでワゴンに載り、死にたいと思っている僕の前に現れ奇妙なドライブを体験する。行き先は転機になった大切な場所。
そのドライブにもう一人の人間が同乗してくる。僕の父親で、いま末期癌で亡くなりつつある中で、自分と同じ年齢で。
僕の家庭が壊れる1年前に、未来を知った状態で1年後の未来を変化させようともがく。果たして現実を変えることが出来るのか?そして8歳の息子は自分の死を納得できるのか。
読後感:
奇妙な世界ではあるが、そんな架空の話の中で、永田家と橋本親子の二組の家族の家庭内の問題――妻の不倫、子供の受験、いじめ、暴力に絡む親子の絆、父親と息子の想い、死の恐怖――といった今日の課題を浮き彫りにして解きほぐしていく。著者の暖かいヒューマニズムが感じられる作品となっている。
転機となった大切な場所に橋本さんが連れて行き、考え反省することで解決の芽はたがいの交差による行動、会話で見えてくるが、大切な場所は当時はそれが大切な場所と認められずに見過ごしてきたところ。それぞれが納得して受け入れ、現実の世界に帰っていくことになり、昔と違う前向きな心構えで現実に立ち向かうことになる。読み終わった後、なにか爽やかな感動が残る作品である。
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