読後感:
本州の西の端の、城下町でもあった港湾町周防に帰郷したヨージが、この先の心配事(妻に死なれ、立て替えた二世帯住宅にひとり住む口数の少ない年老いた父のこと、妻和美の性格からこの町で暮らすのは無理であろうこと、娘美奈子のこの後の人生は? さらに自分はどんな人生を生きたいんだ?)を抱えながら、昔の野球部で地元に残っているカメさん、ジンブーと旧交を温めていく。そこには高校野球の熱い思い出がふつふつと伝わってくる。
そしてこんな子が孫にあったらいいのにと思うような、少し大人の、気が回りすぎの、明るくてこまっしゃくれた小学5年生の美奈子がいい。
特に母親の一周忌の法要時、父親が口数が少ないし、親戚からはよく思われていない長男夫婦であるヨージと和美が盛り上げないといけない事情を悟り、美奈子が親戚の中をお喋りしながら酌をしてまわる場面には涙が出て来る。
その裏で、悲しい事件で亡くなったオサムのこと、町を離れていった女子マネージャーの恭子が再び周防に帰ってきて、トラックの運転手をしながら、一人息子の甲太を育てつつ、過去から立ち直って強く生きる母親がいる。
カメさんにしろ、ジンブーにしろ年月が経ち、それぞれの人生を歩む中、それぞれ悩みを抱えていながら生きている姿には、こんな友達がいる故郷の良さをしみじみと感じさせる。
妻の和美との離ればなれの中でのメールでのやり取りの中にも、妻の性格が表れていて、夫のヨージとの関係も想像されて面白い。
年をとり、妻にも先だたれ、独り身となったときに、はたしてヨージの父親のような言葉を吐くとが出来るのか?
爽やかな中にも、しみじみと感じさせる内容の、いい作品である。
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