重松清
          『希望ヶ丘の人びと』 
 



              2013-12-25


(作品は、重松清著 『希望ヶ丘の人びと』   小学館による。)

               

  本書 2013年(平成25年)4月刊行。

 重松清:(ウィキペディアより抜粋)
 
 1963年岡山県生まれ。中学、高校時代は山口県で過ごし、1981年山口県立山口高等学校卒業後、18歳で上京。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。角川書店の編集者として勤務。後に田村章など多数のペンネームを持つフリーライターとして独立し、ドラマ・映画のノベライズや雑誌記者、ゴーストライターなど、多くを手がけた。


物語の概要:図書館の紹介記事より

 田島は、子どもたちとともに、ガンで亡くなった妻のふるさと、希望ヶ丘に引っ越してきた。それは、脱サラして転職を決めた田島の再出発でもあった…。亡き妻の思い出のニュータウンに暮らす親子を描く感動長編。

主な登場人物:

田島(40歳)
娘 美嘉
息子 亮太
亡き妻 圭子
(旧姓 松山)

会社を早期退職しフランチャイズ制の進学塾“栄冠ゼミナール”の教室長。優柔不断の性格を認識している。
美嘉:新中学3年生。難しい年頃の女の子なのに田島にとって“掛け値なしでいい子”と思っている。
亮太:新小学5年生。亡き母親のことを忘れられずに甘えん坊。
妻の圭子(田島とは1つ年上)は2年前ガンでなくなる。小5から中学卒業までの5年間を希望ヶ丘で過ごす。

藤村香織
(渾名 フーセン)
ダンナ
娘 彩香

圭子の幼なじみ。渾名の通りふくよかな体型。
ダンナ:婿養子、夫婦仲は良く、ギターを弾き夫婦でカラオケで熱唱したりと。田島の4つ年上。
彩香:高校2年で中退、男と一緒に希望ヶ丘から姿を消す。メールだけはよこしている。

本条瑞雲
妻 チヨ

書道教室の先生。頑固で、厳しい指導で今は生徒もいない状態。圭子も小5から2年間通っていた。
チヨさんはいつも優しい笑顔で先生に仕えている。娘の家族は湾岸地区に住む。

伊藤翔太(18歳)
(通称 ショボ)
母親 瑞恵
(みずえ)

希望ヶ丘中学のOB。まっとうな両親が希望ヶ丘にいるのに家を出てエーちゃんに師事している。マリアの守り役。
小さい頃祖父である瑞雲先生に厳しく習字を仕込まれる。
瑞恵:本条瑞雲の娘。

宮嶋泰斗(やすと)
母親
父親

美嘉と同級生、真面目だが、母親が思うほど勉強はできない。
母親は塾の講師についてクレームをつけたり、担任の若い女先生をいたぶったりのモンスターママ。
父親は圭子と同級生。調整役の生徒会長も。妻の尻にひかれ、駅の反対地区に一人になれる居酒屋通い。“いい奴くん”で田島の1つ年上。

阿部和博
(通称 エーちゃん)
娘 真理亜
(通称 マリア)

湾岸地区のゲームセンター“ゴールドラッシュ”のオーナー。
“エーちゃん”と言われるように矢沢永吉ばりのパフォーマンスぶり。数々の武勇伝がある。ケイちゃんへの片思いの男。
マリア:ハーフで帰国子女の不良娘。“栄冠ゼミナール”に入ってくる。母親は小さい頃交通事故でなくなる。

野々宮女先生 希望ヶ丘中学3年一組担任だったが、宮嶋ママの執拗なクレーマーぶりに外される。
吉田先生 希望ヶ丘中学の生活指導の先生。5−6年前に来て評判の先生。“先生の言い分は正しい。しかし優しくない”と田島もエーちゃんも感じる。

補足 希望ヶ丘ニュータウン 1970年代の初め開発のニュータウン。希望ヶ丘の駅を挟んで坂の上の方。駅の北側は工場地帯のある湾岸地帯。

読後感

 久しぶりに重松作品を読む。妻を若くして亡くした父子家庭、娘の美嘉は中学3年生でありながら弟の亮太と父親の面倒をみる母親代わりを演じる。心の内に悲しみを抱えながら。
 そんな中会社を退職し、子供達の面倒を見られるように希望ヶ丘で進学塾を立ち上げる父親は慣れない仕事でエリアマネージャーの若い加納に嫌味を言われながらも問題のある子供達を受け入れることに。

 希望ヶ丘というニュータウンは希望の星のように最初は見られるも、そこに住む人々は平均以上の収入があり、同じようなレベルの人達が住むことでみなと違った人は弾かれてしまう雰囲気を形作ってしまう。そしてそれに惹かれたり、そんな世界を嫌う人が希望ヶ丘から出ていくことに。

 駅を隔てて反対側の湾岸地区では希望ヶ丘とは異なる荒れた地域ではあるが、希望ヶ丘にはない雰囲気があり、避難所的に利用する希望ヶ丘の人もいる。
 時代が変わるとニュータウンも変わって成熟から衰退と変化の時期を迎える。

 そういう地域を背景に昔希望ヶ丘の中学に通った同世代の人々の繋がり、伝説のエーちゃんのパフォーマンス、亡くなった妻の圭子の憧れの人と、自分とのことの負けの負い目、はたまた娘の悩みにどう対応してやればよいのかと悩む父親像。両親家族との間で心が通い合わずに反発し合っている親子の姿、帰国子女として希望ヶ丘に、ニッポンになじめないで孤高に振る舞う気丈で大人の感覚を持ち合わせている女の子、母親のモンスターママぶりに戸惑う子供と父親。
 いじめを助長するような教師の姿。
 登場し、紡がれていく人達の行動は共感したり考えさせられたりと感動ものである。
 久しぶりに昭和の時代の懐かしさに触れた思いで思わず“銀色の道”を共に口ずさんでしまった。

  

余談:
 ウィキペディアで著者の略歴を調べていたら、以下のようなことの記述があった。
”矢沢永吉の熱心なファンで、『成りあがり』を真似て夜行列車でわざわざフォークギターを持って上京したが、東京に着いたらラッシュアワーで死ぬかと思ったという。矢沢永吉や吉田拓郎は、「地方に住む僕たちに『上京の物語』を与えてくれた」と感謝している。”
 本小説に出てくるエーちゃんもそんなところから来たのかと感慨深い。
背景画は、ニュータウンのイメージを求めて探したもの。

                    

                          

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